2024年12月06日 公開
日本総合住生活(株)(以下JS)は、UR賃貸住宅の管理・修繕を60年以上手がけてきた集合住宅管理のパイオニアだ。そのJSが建物だけでなく、コミュニティの形成にも力を入れているという。同社が旗振り役を務める多摩ニュータウンのイベント「多摩ランタンフェスティバル」の会場で、担当者に話を聞いた。
(取材・構成:石澤 寧、写真撮影:吉田和本)
JSが運営するコミュニティスペース「J Smile 多摩八角堂」。その名の通り八角形でアジアの雰囲気を持つ八角堂の建物に、ベトナムランタンの鮮やかな光が映える。
「多摩ランタンフェスティバル」は、JSが運営するコミュニティスペース「J Smile 多摩八角堂」(東京都多摩市)を中心に色鮮やかなランタンを灯し、街全体を明るく盛り上げるイベント。2019年から毎年秋に開催し、今回(2024年10月7日~13日開催)が第6回目となる。
八角堂に隣接する「豊ヶ丘・貝取エリア」の商店街には屋台やキッチンカーが並び、地域にゆかりのあるクリエイターたちも出店。アーティストによるパフォーマンスも繰り広げられ、今回は3.2万人もの来場者でにぎわった。なぜこれほど人が集まるイベントになったのか。
「八角堂を起点に、地域の方々と地域に根差した企業・団体の輪が広がったおかげです」と語るのは、JS事業計画課の竹場奈津子さんだ。リフォームのショールームだった建物を活用した八角堂は、地域住民が料理教室やマルシェを開いたり、地元のアーティストが音楽ライブやワークショップを行なうなど、コミュニティ活動の拠点になっている。「街をもっと良くしたいという方々がたくさん集まっています」(竹場さん)。
今回初の試み「ランタンパレード」。地元のアーティストが製作した"山車"を先頭に、地元の子どもたちと楽団が会場を練り歩いた。
今回のランタンフェスでも、キッチンカーで販売するクラフトビールの味の検討やラベルの製作を八角堂のボランティアが担当。会場準備にもボランティアが参加するなど、住民をただのお客さんにしない運営がなされている。
トイカプセルの中のソーラーによって光を放つ「たまのニューランタン」。住民が短冊に書いた「日常の幸せ」と共に街を照らす。
そもそも、ランタンフェスの始まりも、「夜になると周辺が暗い」という住民の声がきっかけだった。それに耳を傾け、住む人を巻き込む取り組みを続けてきた結果、多くの人が集まり、ランタンフェスは地域を代表するイベントとなった。今回は開催委員会を設置し、関係団体は80を超え、さらなる進化を遂げている。
「八角堂」にちなみ、8種類の素材やフレーバーを使ったオリジナルのクラフトビールを販売。味の検討からオリジナルラベルの製作までボランティアが関わった。
三輪自動車「トゥクトゥク」が来場者を乗せて八角堂と商店街を往復。
「コミュニティマネージャー」を務めるJSの竹場奈津子さんと秋本敏伸さん。
しかし、なぜ管理会社であるJSが地域コミュニティ形成支援まで手がけるのか。「高度経済成長期に造られた団地は、設備の老朽化や住民の高齢化と共に、コミュニティの希薄化が大きな社会課題となっているからです」と、同社の尾神充倫取締役は説明する。
「コミュニティを活性化するには、今の住生活に寄り添いながら、地域の魅力を発信し、新たな居住者を呼び込む活動が必要です。八角堂はそのための拠点の一つです」と尾神取締役。そして、それらの拠点の活動のカギを握るのが「コミュニティマネージャー」の存在だという。
「団地の課題は日本社会の縮図。その課題を解決して"新しいふるさと"をつくることは、日本全体を元気にすることにもつながると思います」と尾神充倫取締役は語る。
JSではコミュニティの活性化に、「環境を『ひらく』、人が『あつまる』、仲間と『つながる』、活動が『ひろがる』」という4つのステップで取り組んでいるが、それを現場で主導するのがコミュニティマネージャーだ。
ひと言でコミュニティの活性化と言っても、各地で状況や地域性は異なり、汎用性のある正解は存在しない。そこで、JSの社員自身が地域に入っていき、直接対話をしながら、住民と一緒に必要な活動を作り上げていく。それができるのは、同社が管理会社として長年にわたり住民と直接接してきた蓄積があるからだ。コミュニティマネージャーは「JSのアイデンティティを象徴する存在」(尾神取締役)と言える。
前出の竹場さんも、八角堂を担当するコミュニティマネージャーだ。「ライトに参加したい、という方もいれば、じっくりとコミュニティ活動に関わりたいという方もいます。その濃淡を感じ取って、その方に合う内容を提案しています」と竹場さんは話す。
同じくコミュニティマネージャーを務めるJS事業計画課の秋本敏伸さんは、「フラットな目線」を大事にしているという。
「管理者と利用者の関係ではなく、お互いが一緒に地域を盛り上げるパートナーになれるように意識しています」と秋本さん。先日も「イベントをやってみたいけれど、お客さんが来てくれるか不安」という人の相談に乗りながら、「まずは気軽にやってみましょう」と背中を押したそう。ふたを開ければ多くの来客があり盛況だったという。「その方のとても気持ちのいい笑顔が印象的でした」(秋本さん)。
毎週水曜は八角堂をフリースペースとして開放し、コミュニティマネージャーがより気軽な形で相談を受け付ける「常駐DAY」を設けている。「小学生のお子さんがノートを広げて宿題をしているのを見て、こういう光景が見たかった!と感動してしまいました」と竹場さん。日常に溶け込んだ場所と人が、コミュニティを内側から活性化していくのだ。
JSだけでなく、多摩ニュータウンに住む人たちもプレイヤーとしてコミュニティの活性化を担っている。「たまのニューランタン」を発案したアーティスト・Mikke Remikkeのお二人(吉田実香さん、村田真理さん)もそうだ。「コロナ禍でみんながうつむいている時期に、上を見上げて気持ちが上向くきっかけになれば」と話す。
会場に吊るされた約700個のニューランタンには、住民がそれぞれの「プチハッピー」を書いた短冊が付けられている。
「お母さんのカレーが美味しかった」「見かけた車のナンバーがゾロ目だった」「花壇の水やりをしてくれる方、いつもありがとう」。読んでいると思わず口元がほころぶ。「『この光景に出会えて私の1日も輝きました』と言ってくださる方もいて。こちらもハッピーになります」と二人は話す。
来場者も、きっとこの街に暮らす幸せを改めて感じたはずだ。実際、ランタンフェスがきっかけで八角堂を訪れ、コミュニティの活動に参加する人もいるという。
「自分たちで街を盛り上げたい、という人が一人でも増えたらという気持ちでサポートを続けていきます」と竹場さん・秋本さん。
ニューランタンがこの街に住む人の日常の幸せを照らすように、コミュニティマネージャーは地域の可能性に光を当てる。それに共感し、自分もその可能性の一つになろうと取り組む人が増えれば、各地のコミュニティはより元気になっていくに違いない。
「団地キッチン」田島(さいたま市桜区)
「食」を中心にコミュニティの活性化を目指す施設。カフェに加え、菓子製造・そうざい製造の許可にも対応したプロユースの「シェアキッチン」も備える。さらに、クラフトビールを醸造する「ブルワリー」も。
「読む団地」ジェイヴェルデ大谷田(東京都足立区)
団地の中につくられた、「本から始まる、ご近所づきあい」をテーマにしたシェアハウスと地域に開かれたコミュニティスペースからなる施設。シェアハウスに住む若者たちや地域住民が緩やかに交流し、コミュニティの活性化に貢献している。
「リノベーション施設の地域コミュニティ創り」「"食"や"本"を通じたコミュニティ拠点の運営」が評価され、JSは2023年度の「グッドデザイン賞・ベスト100」に輝いた。
【お問い合わせ】
日本総合住生活株式会社
03-3294-3381
https://www.js-net.co.jp/
更新:01月18日 00:05