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「営業の半分以上がスポーツ人材」 予防医療を広める企業が、採用を通じて目指す社会像

2024年09月06日 公開

小塚崇史(コスモヘルス〈株〉代表取締役社長)、吉浦剛史(スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」推進委員)

吉浦剛史氏 小塚崇史氏

採用難が叫ばれる昨今、企業は優秀な人材の確保に頭を悩ませている。そんな中で注目を集めているのが、学生時代にスポーツに打ち込んだ「スポーツ人材」だ。その魅力や活用の秘訣とは?

家庭用医療機器業界シェアNo.1を誇るコスモヘルス(株)の小塚崇史社長に、アスリートのキャリア支援の第一人者・吉浦剛史氏が話を聞く。(構成:坂田博史/人物写真撮影:長谷川博一)

※本稿は、『THE21』2024年10月号の掲載記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

予防医療によって「病気のない社会」へ

コスモヘルス(株)
コスモヘルスの企業ビジョンは「病気のない社会を作る」こと。それを実現すべく、予防医療を普及させるための様々な取り組みを推進している。

【小塚】私たちは、今年で創業40年を迎える医療機器メーカーです。企業ビジョンは、「病気のない社会を作る」。日本国民の健康寿命を伸ばすことが私たちのミッションです。

ただ、医療機器は、ビジョンを実現するための1つの手段に過ぎません。運動に関するアドバイスや栄養バランスのとれた食事のアドバイスなども、お客様へのサービスとして行なっています。医療機器、運動、栄養の3つを軸に、日本人を健康にしていく、トータルケアサービス企業が目指すところです。

さらに、アスリートに私たちの医療機器を使用してもらう、健康サポートサービス事業も少しずつですが拡大しています。

また、まだ事業化には至っていませんが、地方自治体の医療費や介護費を削減するプロジェクトにも挑戦しています。これも「病気のない社会を作る」というビジョンを実現するための挑戦です。

【吉浦】企業ビジョンに強い思い入れがあることがよく伝わってきます。

【小塚】「病気のない社会を作る」ためには、病気にならない、ケガをしない身体づくりが何よりも先決です。つまり、予防医療こそが重要なのです。

しかし、日本は公的医療保険制度が整っているため、病気になったら病院に行けばいいと考える人が多い。だから予防医療にあまり注目が集まりません。

他方、アメリカは日本のような医療保険制度がなく、救急車も有料なら、治療費も高額です。だから病気にならないよう予防医療に取り組む人が大勢います。

日本の医療保険制度だって、高齢化が一気に進む今後は、予防によって医療費を削減していかなければ、いずれもたなくなるでしょう。私が予防医療を事業として行ないたいと考えたのは、その社会的必要性が非常に高いと考えたからなのです。

【吉浦】スポーツをやっている人は、そうでない人よりも、予防の重要性を理解しています。

病気やケガをしたら、治療やリハビリに多くの時間がとられますし、元通りの状態に身体を戻せるとは限らないことを知っているからです。学生スポーツにおいても、準備体操やストレッチ、ウオーミングアップの重要性が説かれ、それらを入念に行なうことが当たり前になりました。

【小塚】一般の人も同じで、一度失った健康は、取り戻せない可能性があります。健康なときに、いかに健康な状態を維持するか。それが大事なのです。

きんさん、ぎんさんが100歳になったとき、テレビコマーシャルに出演しました。このとき、そのギャランティを何に使われますかと聞かれ、「老後のためにとっておく」と答えたのには世間が驚きました。100歳になっても、「まだ老後ではない」という意識が本当に素晴らしい。私は、きんさん、ぎんさんみたいに幸せに歳を重ねる人たちをもっと増やしたいのです。

 

なぜ小学校、中学校で予防の授業を行なうのか

吉浦剛史氏
【小塚崇史(こづか・たかし)】
上智大学卒。2008年、家庭用医療機器業界シェアNo.1のコスモヘルス㈱に一般社員として入社。その後15年間にわたり、現場から会社を良くすることにコミットし、様々な行動と変革を仕掛け続け、売上35億円から100億円の企業にまで成長させる。取締役を経て、2023年2月より現職。

【吉浦】ビジョンを実現するために、具体的にはどのようなことに取り組まれているのですか。

【小塚】私は、「知識の低さは意識の低さ」という言葉が好きで、日本人の健康意識や予防意識が低いのは、知識が不足しているからだと考え、健康と予防に関する知識を広めることに力を入れてきました。

例えば、全国の小学校、中学校、高校に行き、弊社のアドバイザーが病気の大変さと、いかに自分の健康を守るか、健康と予防に関する授業を行なっています。この授業を聞いて、お菓子を食べるのを控える子どももいます。国語、算数、理科、社会のように、予防が必修科目になるまでやり続けたいと思っています。

2022年からは、全国中学校・高等学校ゴルフ選手権大会の開会式において、「予防医療」をテーマに講演を毎年行なっています。伝えているのは、ケガをしてから治療をするのではなく、ケガをしない身体をつくることの大切さです。

【吉浦】シニアプロのゴルフツアー「コスモヘルスカップシニアトーナメント」も主催されています。

【小塚】この大会の前日にも、プロゴルファーやその関係者に向けて、予防医療のセミナーを行なっています。アスリートの身体のケアが主題で、昨年は弊社の新卒入社6年目のアドバイザーが登壇しました。

京都大学にて
学生向けの啓蒙活動にも力を入れており、全国の学校でコスモヘルスのアドバイザーが出張授業を行なっている。2023年11月には、小塚社長自身が京都大学で、同大学野球部の1~3年生に向けて予防医療をテーマに講演。

 

スポーツの経験が「困難を楽しめる人」にする

吉浦
【吉浦剛史(よしうら・つよし)】
スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」推進委員
㈱スポーツフィールド キャリアサポート推進室長
1988年生まれ。奈良県出身。大和ハウス工業㈱で社内営業表彰を複数受賞後、2015年に㈱スポーツフィールドに入社。現在は関西と九州のエリアマネージャーとキャリアサポート推進室長を兼任。2020年からはスポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」の推進委員も務める。アスリート学生へのキャリア支援のための講演や授業を行ない、受講生は1万5,000名を超える。JKC(全日本フルコンタクト空手コミッション)キャリアサポートアドバイザー。

【吉浦】学生を採用する際、会社の説明をされると思います。一番力を入れて説明されることは何ですか。

【小塚】もちろん、「病気のない社会を作る」というビジョンについてであり、それをどうやって成し遂げていこうと考えているかです。こうした話に共感してくれる学生を採用したい。

次によく言うのは、若いときに多くの経験を積める会社だということ。例えば、若手がプロゴルフ大会のマネジメントができる企業は多くないでしょう。ゴルフの大会はスポンサーが主催なので、集客やマーケティングなども自分たちで考えて行なうのです。

2023年にJリーグの清水エスパルスとクラブパートナー契約を締結しましたが、これは私が言い出したことではなく、静岡県出身でエスパルスサポーターの一人の社員が、自分の人脈を駆使して段取りをすべて行ないました。

29歳で売上約10億円の販売子会社の社長になった社員もいます。人それぞれに、やりたいことは違いますが、弊社には年齢に関係なく様々なプロジェクトに主体的に携われる環境があります。

【吉浦】仕事には、責任がともないます。責任をとる覚悟がある人は、大きな仕事もできます。

会社としては、責任をとる覚悟のある人に挑戦できる仕事を与えることができるかどうか。覚悟をもって挑戦したい人にとっては、その環境がある企業はとても魅力的です。挑戦の環境がある会社に優秀な人材が集まることは、私の人材コンサルとしての経験からも間違いありません。

【小塚】挑戦するような仕事は、最短距離でうまくいくことはそうそうありません。困難な道を選び、それを何とか乗り越えていく。そんなドラマチックな人生を歩みたい人が集まっていると言えるかもしれません。

「なかなかうまくいかないけれども、それも楽しい」という感覚は、多くのスポーツ選手にもあるのではないでしょうか。弊社の営業担当者の半分以上がスポーツ人材なのですが、みんな困難を乗り越えることを楽しんでいます。


Jリーグの清水エスパルスとクラブパートナー契約を締結。年に1度のコスモヘルスマッチでは、エスコートキッズならぬ、「エスコートシニア」を実施。「選手と子どもたちではなく、選手とシニアが手をつないで入場します。これまでの最高齢は96歳です」(小塚社長)。

【吉浦】スポーツ人材の特徴として、他に何か感じられていることはありますか。

【小塚】誰かを喜ばせたいという気持ちも、他の人たちよりも強いのではないでしょうか。自分が活躍することでチームを勝たせたい、両親など周りの人たちを喜ばせたいといったことを、スポーツ選手はよく口にしますよね。

みんなが健康になることは、みんなが喜ぶことにつながるので、私たちのビジョンに共感してくれる人も多いんです。学生に伝えたいのは、自分がやりたいことを私たちの会社で実現してほしいということです。予防を広めたいジャンルはまだまだ無限に広がっていますから。

 

ゴルフのシニア大会をスポンサードする理由

シニアプロのゴルフツアー「コスモヘルスカップ シニアトーナメント」
主催しているシニアプロのゴルフツアー「コスモヘルスカップ シニアトーナメント」。「同世代のプロの姿を見て、自分も健康で長生きしたいと思うシニアが増えてくれればと願っています」(小塚社長)。大会の前日には、プロゴルファーやその関係者に向けて身体のケア方法に関するセミナーも行なっている。

【吉浦】ビジョン実現に向けて、新たな壁の存在に気がつかれたと聞きました。

【小塚】そうなんです。知識を広めるだけでは、病気のない社会は作れないことに気づかされました。例えば、70代で膝が痛い、腰が痛いといった人たちに健康になる方法を色々と提示しても、「もういい。あとはお迎えを待つだけだから」などと言われてしまうと、もう私たちにできることはありません。

生きる喜びや生き甲斐がない人には、知識のニーズがない。つまり、知識を広めるだけでは不十分で、生きる喜びや生き甲斐を提供することにも力を入れる必要があるということです。

【吉浦】それが、ゴルフのシニア大会をスポンサードしている理由だということですが、どういうことでしょうか。

【小塚】会社の認知度向上の側面から言えば、女子ゴルフのスポンサーになったほうが、はるかに効果的でしょう。にもかかわらず、シニア大会をスポンサードしているのは、シニア大会の開催が日本の未来に夢を与えると信じているから。

シニア大会には、70歳を超えても優勝を目指して出場する選手がいます。その姿を初めて見たとき、私は感動しました。こうした夢を追いかける人たちのことを、もっと多くの人たちに知ってもらいたい。彼らの姿を見て、自分も健康で長生きしたいと思う人たちをもっと増やしたい──そう思ったのです。2024年の大会のメインコンセプトは、「健康と生き甲斐が人を輝かせる」です。

【吉浦】清水エスパルスでも、シニアを元気にする面白い取り組みをされています。

【小塚】年に1度、コスモヘルスマッチと呼ばれる試合があるのですが、その際、エスコートキッズではなく、「エスコートシニア」を実施しています。選手と手をつないで子どもたちが入場するのではなく、シニアが手をつないで入場します。

これまでの最高齢は96歳で、ピッチを歩く姿がニュースなどで報じられました。それを見て、「自分もやってみたい」と思った人が少なからずいます。

高齢者のニュースというと、高速道路を逆走したなどのネガティブなもの、高齢者の不安をあおるようなものばかりです。だから、「長生きしたくない」というシニアが本当に多い。逆に、ワクワクするようなことがあれば、年齢を問わず、健康であり続けたいと思うはずです。

私たちは、その思いを実現するために事業を行なっているから、これまで発展、成長を続けてこられたのだと思います。病気の怖さを伝えることも大事なことなのですが、それ以上に、健康の素晴らしさをもっと伝えていきたいと考えています。

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