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天理大学が輩出する「スポーツ人材」が企業に高く評価されている背景

2024年07月05日 公開

永尾比奈夫(天理大学 学長),吉浦剛史(スポーツキャリアサポートコンソーシアム推進委員)

天理大学

採用難が叫ばれる昨今、企業は優秀な人材の確保に頭を悩ませている。そんな中で注目を集めているのが、学生時代にスポーツに打ち込んだ「スポーツ人材」だ。その魅力や活用の秘訣とは?

オリンピックのメダリストを多数輩出している天理大学(奈良県天理市)の永尾比奈夫学長に、アスリートのキャリア支援の第一人者・吉浦剛史氏が話を聞く。(構成:坂田博史/写真撮影:桂伸也)

※本稿は、『THE21』2024年8月号の掲載記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

永尾比奈夫

【永尾比奈夫(ながお・ひなお)】

天理大学 学長

1964年生まれ。86年6月、カリフォルニア大学バークレ校を卒業。90年8月、カリフォルニア大学サンタバーバラ校大学院にて修士号を取得。天理教海外部次長、学校法人天理教校学園理事、学校法人天理大学専務理事を経て、2023年4月より現職。

 

【吉浦剛史(よしうら・つよし)】

スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」推進委員
(株)スポーツフィールド キャリアサポート推進室長

1988年生まれ。奈良県出身。大和ハウス工業(株)で社内営業表彰を複数受賞後、2015年に(株)スポーツフィールドに入社。現在は関西と九州のエリアマネージャーとキャリアサポート推進室長を兼任。2020年からはスポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」の推進委員も務める。アスリート学生へのキャリア支援のための講演や授業を行ない、受講生は1万5,000名を超える。JKC(全日本フルコンタクト空手コミッション)キャリアサポートアドバイザー。

 

建学の精神の学びと経営理念との親和性

【吉浦】私は人材コンサルを務めておりますが、企業側からみた貴学のスポーツ人材の評判の良さにはいつも驚かされます。他の大学の学生と何が違うのかと考えたとき、貴学の建学の精神に対する理解の深さにその理由があるのではないかと感じています。

建学の精神をきちんと学生に教えている大学は、少ないのではないでしょうか。履歴書に「建学の精神に学んだ」と書けるのは本当にすごいことだと思いますね。

【永尾】とても有難く嬉しいお話です。いま多くの大学が、社会での即戦力としての実学教育を強化されています。本学は実学教育ももちろん大切にしていますが、「『陽気ぐらし』世界建設に寄与する人材の養成」という建学の精神を教育の根幹に据えて、特に人間力の育成に力を入れています。

「陽気ぐらし」とは、人々が国境や文化を乗り越えて多文化共生する世界であり、その世界の実現のために「利他の心」を持ち、献身的な態度で社会に貢献できる人材を育てたいと考えています。

天理教でいうところの成長とは、心を澄み清めていくこと。私利私欲のために人生を謳歌するのではなく、どれだけ他人の役に立てるかという視点を重要視します。我々はそれを「天理スピリット」と呼んでいます。天理スピリットは、スポーツ人材を輩出している体育学部にかぎらず、人文学部、国際学部、医療学部すべてに貫かれている考え方です。

【吉浦】「天理大学の卒業生は、私たちの経営理念をきちんと理解してくれる」と企業経営者から言われたことがありますが、それは彼らが建学の精神を腑に落としてきたからではないかと思います。

企業にとって経営理念は、判断に迷ったときに立ち返るべき大切な考え方です。なぜその企業が存在しているのか、自分たちは何をすべきなのか、という経営理念は、建学の精神に通底するものがあります。

 

AIの時代だからこそ人間力が求められる

【永尾】我々は本当の意味での実学は、「人間力」ではないかと考えています。他人を思いやり、素直に耳を傾け、能動的に動いて、自分を成長させて、社会のお役に立つ。人間性を養うことこそが実学の土台である気がします。

ビジネスシーンで商談を成立させるためには、最終的にはその人が信用できるか否かがカギを握ります。どんなに素晴らしい資格を持っていても、人間力に乏しければうまくいかないと思うのです。

【吉浦】人間力は、社会人としての伸びしろでもありますね。いま必要とされる実務能力が、10年先、20年先まで通用するとは限りません。ましてやAIなどの技術革新が日進月歩の世の中では、あらゆる実務能力が早晩陳腐化するといっても過言ではありません。そのときに人間にしかやれないことが問われるのではないでしょうか。

【永尾】経営の神様と呼ばれたパナソニックグループ創業者の松下幸之助さんが、1932年に天理教信者であったお取引先に誘われて教団本部を訪れた際、無償の奉仕活動に勤しむ信者の方々の姿に心を打たれ、産業人としての使命に目覚めたエピソードは有名です。

【吉浦】松下さんは、天理教の「利他の心」に触れられたということかと思いますし、「自分たちの利益のためだけではなく、日本から貧困を取りのぞく」という松下さんの考え方も、経営者としての利己主義を諫める「利他の心」であるように思えます。

 

多文化共生社会に向けた異文化交流の必要性

【永尾】本学は、人間教育の3つの柱として「宗教性」「国際性」「貢献性」を掲げています。「宗教性」とは信仰を問わず人々が楽しく喜びに満ちた生活を願う心に立ち顕れるものであり、「国際性」とは異文化や多様な価値観を理解して国境を超えたコミュニケーションがとれること、「貢献性」とは困っている人に手をさしのべる行動力です。

「宗教性」というと、天理大学は、天理教信者の方しか入れないのか、入学後に天理教に改宗しないといけないのか、などと誤解されることもありますが、そういったことは一切ありません。

もちろん天理教信者の学生が他大学に比べて多いのは事実ですし(現状約3割)、天理教概説については必修科目として学んでもらっています。他のミッション系大学、仏教系大学、神道系大学といったいわゆる"宗教系大学"と同様、建学の精神としての「宗教性」を重んじていることは間違いありません。

【吉浦】永尾学長は海外経験も豊富ですが、若い人たちの国際性については、どのように感じておられますか。

【永尾】いまの若い人たちは、生まれたときからインターネットがあり、ネット上にある世界中の情報を得ながら育ってきました。そのため、海外経験がなくても、世界のことを知っていると勘違いしがちです。

日本語で書かれた世界の出来事は、日本の情報であり、英語の情報とは違います。実際に海外に行く、あるいは日本に来ている外国人と直接コミュニケーションをとると、自分の認識との違いに気づくはずです。

同時に相手に対して日本を語ることも求められます。私は海外生活が長かったので何度も感じましたが、自国の文化やアイデンティティや価値観は非常に大切で、それがないと海外では勝負できません。そうした現実に向き合うことが国際性を養ううえで大切だと思います。

【吉浦】「スポーツの天理」に比べると、「語学の天理」はまだまだ知られていない気もいたします。

【永尾】天理大学の前身は、天理教の海外布教師の養成機関である「天理外国語学校」です。語学教育は学校の設立趣旨に深く根ざしています。

現在、国際学部は、韓国・朝鮮語学科、中国語学科、英米語学科、外国語学科([タイ語・インドネシア語・ドイツ語・フランス語・ロシア語・スペイン語・ブラジルポルトガル語]の七言語から選択)、国際文化学科、日本学科(留学生対象)等々、多言語対応は全国トップレベルであり、「多文化共生」を先取りしてきた大学ならではと自負しております。

 

恩を感じられるか、「誰かのために」が力の源泉

【吉浦】オリンピックのメダリストを輩出するなど、貴学はスポーツが盛んです。

【永尾】スポーツが本学を知っていただくきっかけになるのは有難いかぎりです。スポーツをやっていると、多くの人たちと寝食を共にする経験をします。監督やコーチだけでなく、先輩であるOB・OGにも、お世話になります。人と人との心の距離が近く、信頼関係が自然と育まれるのは、スポーツの大きな果実ではないでしょうか。

また、OB・OGは、後輩である学生たちのために、技術的な指導はもちろん、様々な活動を一緒に行なってくれています。これは、自分たちが学生だったときに先輩たちから受けた恩を返したいと思うからでしょう。母校への恩返しの気持ちが強いOB・OGがたくさんいることも本学の特色の一つです。

恩を感じられるようになる根本は、親に恩義を感じられるかどうかだと思います。本学に限らず、大学に入学して初めて親元を離れて一人で生活する学生が大勢います。

仕送りも含めて、そこで親の有難さを知ることになりますが、親から受けた恩に対して感謝できるかどうか。それが他人からの恩を感じられるかどうかに直結してくるのではないでしょうか。高校でも大学でも恩師を持てるか。同じ先生に教わっても、恩師と仰ぐ学生もいれば仰げない学生もいます。

【吉浦】帝京大学ラグビー部の全国大学選手権十連覇を阻止したのが天理大学でした。私はその直前の12月に初めて天理大学ラグビー部に呼ばれてキャリア講座を行ないました。

なぜキャリア講座を受講しようと考えたのか、と尋ねると、3年生のミーティングで決まったそうで、自分たち学生にとって当たり前のことを当たり前にできることが不可欠で、そうでなければ日本一が当たり前になっている帝京に勝つことはできないと考えたと言うのです。私はこのとき、「この学生たちなら帝京に勝つかもしれない」と思ったのをよく覚えています。

【永尾】学生が自主的に動いたことを誇りに思います。ラグビー部が日本一になるのはその2年後、忘れもしない新型コロナウイルスが感染拡大した2020~21年シーズンです。

春にラグビー部の寮でも62人がコロナ陽性となりました。隔離が必要ということで、近隣の施設にもお願いして何とか乗り切ることができました。

このとき、地域住民も含めて非常に多くの人たちに助けてもらいました。それに恩義を感じ、何とか恩返しがしたいという強い気持ちが、最後、優勝につながったのだと私は考えています。

体育学部や国際学部のほかにも、2023年に本学と「天理医療大学」との統合で誕生した「医療学部」は、患者さんという身体に問題を抱えた方々に接するうえで幅広い人間性を備えてほしいという願いが込められており、2024年に「人間学部」と「文学部」を統合した「人文学部」は、「人文知」をさらに深めようと考えたもので、いずれも「利他の心」が貫かれています。

 

6つの「つながる」を通して奈良から世界へ発信したい

天理大学

【吉浦】最後に、将来に向けての新たな取り組みについて教えてください。

【永尾】来年百周年を迎えるに当たって、コンセプトブックを作成しました。「CONNECT『つながる』を、始めよう」がメインメッセージです。

学生同士がつながる。学部学科がつながる。卒業生とつながる。社会や地域とつながる。ビジネスとつながる。世界とつながる。これら6つの接点をしっかり構築していきたいと考えています。

例えば、大学と地域社会が連携することの重要性の高まりを受けて、社会連携センターをつくりました。スポーツでは、エジプトの柔道を強化する取り組みに参画。それもあってか、エジプトがアフリカ大会で優勝しました。

天理市とはすでに提携していますが、地元奈良をもっともっと元気にしていきたい。奈良には文化遺産が数多くあり、豊かな自然も残されています。それでいて、京都ほどには世界から注目されていません。裏を返せば、それだけ奈良には成長ポテンシャルがあるということです。ぜひ奈良から、天理から、世界に向けて日本の文化や思想などを発信していきたいですね。

 

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