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近視を甘く見てはいけない...医師が教える「失明リスク」を防ぐ習慣

2024年08月22日 公開

窪田良(医学博士,窪田製薬ホールディングス[株]CEO)

「失明リスク」を防ぐ習慣

「年を取ったら、目が悪くなるのは当たり前」と思っていませんか? 『THE21』2024年7月号では、「近視・緑内障・白内障」になる理由から、気になるレーシック手術、 近視の進行を止める眼科医療の最先端の話題までを、 世界の眼科医療事情に詳しい医学博士・窪田氏に聞きました。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』2024年7月号掲載「危険! 万人に潜む失明リスクは、こうして防ぐ」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「近視は病気」という認識が高まっている

現在、日本人の成人のおよそ5割が近視であると言われています。近視は基本的に、子どもの目の成長過程で起こりますが、近年は成人してから発症する人も。ビジネスパーソンの方々の中にも、「仕事で長時間PCを扱うようになってから、めっきり見えづらくなった」という方がいるのではないでしょうか。

日本では軽視されがちな近視ですが、世界的には「治療が必要な病気」という認識が浸透しつつあります。近視は悪循環的に進む性質があり、失明に至るような病気のリスクも高まるからです。中年期から増える緑内障や白内障もその一つ。40~50代の方々は、注意が必要です。 そのためにも、まずは「目の基本」――近視や遠視、乱視などのメカニズムについて、知っていただきたいと思います。

眼球は、カメラと似た構造をしています。一番外側にある角膜がフィルター、水晶体がレンズに当たります。ここを光が通り、一番奥の網膜というフィルムの上で像を結びます。

網膜上できちんとピントが合っている状態を「正視」と言います。対して、網膜よりも手前にピントが来る状態が近視、奥にピントが来るのが遠視です。

乱視は、重力などの影響で角膜や水晶体の球面が歪む症状で、一つのものが複数に見えるなどの見づらさを起こします。

また老眼は、医学用語では「老視」と言って、加齢によって水晶体の動きが悪くなる現象です。水晶体は厚みを変えることでピント調節をするのですが、膨らむ(近くを見る)方向にのみ動くため、その動きが鈍ると手元が見えづらくなります。ちなみにもともと近視なら、老眼になっても近くはよく見えます。

 

「眼軸」が長くなる負のスパイラル

正視と近視、遠視のメカニズム

「ならば近視でも良いのでは?」と考えるのは禁物です。先ほど近視が「悪循環になりやすい」と言った理由をお話ししましょう。

近視は網膜より手前にピントが来ますが、それは相対的に目の奥行が長い、医学的に言えば「眼軸が長い」ということです。なぜ長くなるかというと、近くにあるもの、例えばスマホやパソコンの画面、印刷物の活字などを頻繁に見るせいです。

遠くからの光は平行に入って来るのに対し、近い光は広がりを持ちます。すると水晶体は厚みを増して光を強く屈折させ、ピントを手前にしようと頑張ります。それが頻繁になると、面白い現象が起こります。眼自体も奥に伸びよう、眼軸を伸ばそうと頑張るのです。その結果、近いものだけ見えて、遠いものがぼやける症状が起こります。

なぜなら眼軸が長くなったことで、眼が前後に長い「楕円形」になっているからです。奥にある網膜のカーブが強くなり、本来のピント面のカーブとの間にズレが出るのです。

これが、近視の9割を占める「軸性近視」です(上図)。

近視と診断されれば、メガネをかけますね。軸性近視の場合、メガネは「見ているもの」にピントを合わせてはくれますが、周辺部はぼやけます。

見たいものにピントが合うなら問題ないかと思いきや、最新の研究では、目は見ているものより、周辺部がぼやけていることのほうを「気にする」性質があることが判明しています。

その結果、周辺部にもピントを合わそうと、さらに眼軸が伸びます。するとまた「見たいもの」がぼやけてきてメガネの度数を上げ、またまた周辺部がぼやけて眼軸が伸びる......というスパイラルに突入。これが、近視が悪化するメカニズムだと考えられています。

 

近視の人の目は 「もろくなる」!?

近視の抱えるリスク

深刻な目の病気にも、眼軸の伸びが関係するという見方が広まっています。例えば、網膜に穴が空いたり破れたりする「網膜剥離」。ボクサーなどが顔面に衝撃を受けたときに発症するイメージが強いですが、近視の人もリスク大。眼軸が長くなった結果、網膜が過剰に伸ばされ、破れやすくなるからです。

「近視性黄斑症」という病気もあります。網膜およびその裏にある「脈絡膜」が薄く伸ばされ、血流が悪くなるのが原因です。そうなると身体は酸素を送ろうとして微小な血管をたくさん作るのですが、その血管は非常にもろいため、出血したり、ものが歪んだり、薄暗く見えたりする症状が起こります。

さらに身近な病気としては「白内障」があります。水晶体のタンパク質が加齢とともに白濁する病気ですが、眼球が楕円状に伸びて代謝が悪くなることが一因という説も。白内障は現在、世界の失明原因の第一位です。

対して、日本人の失明原因の第一位は「緑内障」。目の膨らむ力(眼圧)に圧迫されて視神経が死んでしまい、視野が狭窄する病気です。網膜が薄く血流が悪いと、眼圧に対してさらに脆弱になると考えられます。

 

緑内障は発見が遅れると、失明の危険も

網膜剥離は、診断を受けたら即手術となります。軽症ならレーザー照射、重症なら本格的な手術が必要です。シリコン製のスポンジを使って剥離部分をくっつける方法の他、目の中の「硝子体」という部分を取り除いたあと、空気やガスやオイルを入れ、内側から押してくっつける方法もあります。

白内障は、濁った水晶体を取り除き、目の中にレンズを入れる手術で治ります。比較的安全な手術ではありますが、目にメスを入れるのは、やはりリスクを伴うため、眼科医は「最後の手段」と考えます。一方で白内障には治療薬がなく、手術に至るまでの対処は「様子を見る」のみとなるのがつらいところです。

いつまで様子を見るかは、医師によって判断が分かれます。「手術を勧められたが不安」、もしくは「必要ないと言われるが、見えづらくて困る」という場合は、複数の眼科医の意見を聞いて判断するのが良いでしょう。

緑内障は、薬で治すケースがほとんどです。早期発見できれば、眼圧を下げる点眼薬によって症状は軽減し、一生失明することなく過ごせます。ただし、緑内障は自覚症状が起こりにくいのが特徴です。少しずつ視野が狭くなっていることに気づかず、失明寸前にまで至るケースもまれにあります。

40代以降、緑内障の有病率は加速度的に増えます。会社の健康診断が視力検査のみなら、オプションで「眼底検査」を受けるか、眼科で検診を受けましょう。数年に一度は、詳しい目の検査を受けることを強くお勧めします。

 

近視治療の最新手術「ICL」とは

さて手術と言えば、近視を軽くする「レーシック」を検討したことのある方もいるかもしれません。これは、角膜の形を変えて屈折率を調整し、網膜でピントが合うようにする手術です。

角膜の表面を薄く切って「フタ」を作り、中身の形状をレーザーで調整したあとに、フタを戻します。コンピューター制御によってレーザー照射を行なうだけの簡単な手術で、短時間で精度の高い近視改善ができます。

しかし一方で、「直後はよく見えたが、しばらくすると、また近視になった」という声もしばしば聞かれます。眼軸の長さは同じなので、近くを見る時間が長ければ再び近視が進むのです。また、強度の近視の方はもともと角膜が薄いため、手術を受けることができません。

他方、近年注目されているのが「ICL(Implantable Contact Lens)」です。水晶体の手前にレンズを入れるという手術で、受けた人の満足度は非常に高いですが、角膜表面のみを削るレーシックと違い、眼内手術である分リスクは高くなります。普及して間もないため、まだまだ高額であることもネックです。

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著者紹介

窪田良(くぼた・りょう)

医学博士、 窪田製薬ホールディングス(株)CEO

慶應義塾大学医学部卒業。1995年に緑内障の原因遺伝子・ミオシリンを発見。虎の門病院勤務を経て2000年に渡米、ワシントン大学助教授として勤務。02年、創薬ベンチャー・アキュセラを創業。16年に窪田製薬ホールディングス(株)を設立、創薬と医療技術の研究開発を行なう。米NASA・HRP代表研究員。  

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