2024年02月06日 公開
2024年12月16日 更新
転職や異動、あるいは定年など、変化を求められる機会が誰にも必ず訪れる。そうした転機に、国家資格「キャリアコンサルタント」を目指すビジネスパーソンが増えているという。
彼らはどんな思いでこの資格に挑戦し、何を学んだのか? 日本マンパワーの養成講座で学んだ3人のキャリアコンサルタントに、お話をうかがった。(取材・構成:石澤寧)
電機メーカーで長年エンジニアを務めた小林建治さん(61歳)は、定年退職後に人材サービス会社に再就職。現在は自らの経験も活かして再就職の支援をしている。小林さんがキャリアコンサルタントを志したのは、「役職定年」がきっかけだった。
「会社から『もう必要ないよ』と言われているような気がして悩みました。それを社内のキャリアコンサルタントの方に相談するうちに、『人の支援』に魅力を感じて、自分も目指したい、と思うようになったんです」
通信会社で営業支援の業務に就くかたわら、社内のボランティア組織でキャリア相談・支援活動を行なっている棟方敏夫さん(仮名・59歳)は、営業のライン長を外れて異動したことが転機になったという。
「仕事が変わり単身赴任も経験して、『自分の価値は何だろう』と考え直す時期がありました。自分の経験を棚卸ししながら、新しい知識・スキルも身につけたいと考え、勉強を始めました」
宮城県の外郭団体で、地元企業の復興支援に携わっている渋谷昭人さん(62歳)は、元々は製薬会社の営業管理職。キャリアコンサルタントに興味を持ったのは、早期退職で郷里の宮城県に戻り、再就職活動をしている最中だったそう。
「公的就労機関の担当者の方がキャリアコンサルタントの試験に挑戦中で、色々と話してくれたんです。私と年齢の近い方が『こんな体験は初めて。人生観が変わった』と熱く語るのを見て、いったいどんなことが学べるのかと興味が湧きました」
業界の異なる三人だが、仕事で転機を迎え、自分の存在価値が揺り動かされる経験をしたことが共通している。いわば、「キャリアの危機」に陥り、自らがキャリアについて学ぶことで、そこから脱しようとしたのだ。
キャリアコンサルタントの養成講座では、キャリアカウンセリングの理論や、メンタルヘルスに関する知識、労働法規など、様々な知識やスキルを学ぶ。
また、面談場面を想定したロールプレイでは、受講生自身がコンサルタント役と相談者役になり、実際に面談を体験する。このロールプレイは支援者になる訓練であると同時に、自分自身を振り返り、自分が持つ価値観に気づく過程にもなっている。
「過去を振り返ることで、自分がどういう性格で何をやりたいのかが改めて見えてきた気がします。それを言語化して、認識として持っておくことで、何か行動を起こす際に考える材料になっていますね」(棟方さん)
「なぜ自分はこう感じたんだろう? と自問自答を意識するようになりました。自分の心の動きに敏感になり、それが支援者として面談する際にも活きていると感じます」(小林さん)
相手がより望ましい働き方を実現する支援を行なうのがキャリアコンサルタント。しかしそのためには、人や社会について、自分が知っているのはわずかしかないことを自覚することが必要だ。それによって相談者に対して謙虚に耳を傾けることができるようになる。
そして自分自身が過去の経験を振り返り、自分の価値観に気づくことも欠かせない。自分の価値観を知れば、それを相談者に安易に当てはめなくなるからだ。これらは日本マンパワーの養成講座が特に重視している点だという。
キャリアコンサルタントには、様々なスキルが必要だが、中でも特に重要なのが「聴く力」だ。
「『傾聴』とは、自分の価値観や考えを脇に置き、相手の話に肯定的に耳を傾ける、ということです。言うのは簡単ですが、これがなかなか難しい。
私がロールプレイでコンサルタント役をやった際、別の受講生から、『丁寧に話を聞いているようで、実は相手の答えを誘導していませんか』と言われて、ドキッとしたことがあります。自分の癖は指摘されないとなかなか気づけないもの。それ以来、まずは相手の話を受け止めることを意識しています」と渋谷さんは苦笑して振り返る。
最近多くの企業で実施されている1on1でも「傾聴」が大切、と指摘するのは棟方さんだ。
「1on1を『業務の相談の場』としてしまっている上司もいるのですが、それではもったいない。プライベートも含めて相手が話したいことを話してもらい、それを受け止めることで信頼関係が育ちます。そこを起点に部下が仕事の改善点を自分で見出したり、意識していなかった自分の長所に気づいたりする、ということがあると思います」
日本マンパワーのキャリアコンサルタント養成講座では、傾聴による信頼関係(ラポール)を構築する力を磨いていく。
実際、講座を修了した管理職やマネージャーからは、「講座を受けてから職場の雰囲気が良くなった」という声が聞かれるという。「家族や友人との関係が良くなった」という感想も多いそうだ。
再就職支援の現場で相談者の面談を行なっている小林さんも、この「傾聴」の重要性と効果を日々実感している一人。
「『話を聴いてもらって自分の中で問題の整理ができました』といった感想をいただくと達成感がありますね。私自身も養成講座で同じクラスの仲間に『聴いてもらう』という体験をして、目からウロコが落ちる思いがしたのをよく覚えています」
働きながらの資格取得は楽ではない。ただ共に学ぶ「仲間」の支えも大きいようだ。同じクラスのメンバー、そして日本マンパワーの講座で同じ学びをしたCDA(Career Development Adviser=キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の先輩後輩とは自然と連帯感が生まれるという。
「この年齢になると、新たな仲間ができる場ってそうそうないですよね。キャリアコンサルタントの勉強を始めた当初は、心理学やカウンセリング理論など、理系の自分には初めての分野ばかりで不安もあったのですが、挑戦して本当に良かった。人生を変える学びになりました」と小林さんは語る。
その笑顔には、キャリアの危機をチャンスに変えた充実感がにじんでいた。
渋谷さんも、この講座での学びが自分の新しい人生を切り拓いたと語る。
「様々な業界、業種の方々に会い、新しい知識や考え方に接する毎日です。それをスッと受け入れられるのは、『まずは受け止める』という姿勢を学んだから。この年齢でも視野が大きく広がるのを感じています」
キャリアについて学ぶことは、ビジネスパーソンとしてだけでなく、トータルな人間的成長にもつながる。これからの人生をさらに充実させたい人には、何よりの学びの機会となるに違いない。
更新:12月21日 00:05