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部下に仕事を任せられない「40代の管理職」が見落としていること

2012年07月31日 公開
2022年12月15日 更新

小室淑恵(〔株〕ワーク・ライフバランス代表取締役社長)

管理職に求められるのは数年後を見据えたマネジメント

パソコンさえあれば多くの業務を、簡単でスピーディーにこなせるようになった。それに伴い、今まで"数をこなす"ことを求められてきた40代管理職は、自分が今までされてきたマネジメントでは立ち行かなくなっている。

〔株〕ワーク・ライフバランス社長・小室淑恵氏は、サポート型マネジメントを推奨する。それは、具体的に何から始めれば良いのか。詳細に解説する。

※本稿は、『THE21』2012年8月号「40代ビジネスマンの仕事の急所」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

数をこなしても成果には結びつかない

40代の管理職世代には、いまだに「自分がエースとなり、誰よりもたくさん働いて、メンバーを同じ方向へ引っ張っていく」というマネジメント手法にこだわる人が少なくありません。

でも、その方法で成功するのはほんの一部の"スーパーマン"だけ。多くの管理職は、仕事を抱え過ぎて自分を苦しめています。

現在の40代は、ある意味で不運な世代といえるかもしれません。この世代が20代から30歳前後のころは、確かに「数をこなせば成長できる」という時代でした。

メーカーであれば、まずは倉庫に配属され、商品や在庫の確認作業を繰り返し、自社商品の知識を叩き込んでから営業に配属される。すると発注ミスが少ない"優秀な営業マン"になれたわけです。

ところが、30代に入ったころには、発注などの作業はすべてコンピュータがやってくれるようになりました。数をこなして熟練することが成果につながる時代は終わり、付加価値の高い創造的な仕事が求められる時代に変わったのです。

しかし、多くの人はそこで働き方を変えなかった。むしろ、「数をこなしても成果が出ないので、さらに数をこなす」という方向へ走ってしまいました。だから深夜まで残業して、それでも成果が上がらない。

しかも、下の世代は数をこなせば成果が出る時代を経験していないので、そんな上司のやり方に反発する。結果、チームとしても生産性が一向に上がらないという状況に陥っています。

現在の40代管理職に求められているのは、メンバーそれぞれの強みを最大に発揮できる環境づくりです。強いリーダーシップ型のマネジメントではなく、一人ひとりのメンバーを丁寧に支援するサポート型のマネジメントが必要なのです。

全員がもっている能力を発揮できれば、チームとしてのパフォーマンスも上がり、いちばん能力の高いリーダーばかりに仕事が集中するという状況も改善され、管理職自身がラクになれます。

では、サポート型マネジメントを実践するには何から始めればよいか。それは、メンバーを認めて、褒めて、安心させることです。

数をこなす時代は、ミスをさせないよう、上司が厳しく緊張感をもって部下を管理する手法が有効でした。しかし、創造性を発揮させるには、そのやり方では逆効果。

上司に怒られてばかりで萎縮したメンバーは、いいアイデアや企画があってもなかなか提案しないし、会議でも発言しない。これでは、チームとして付加価値の高い仕事をすることなど不可能です。

だから、まずはチームのメンバーを褒めることから始めてください。「助かったよ」「うまくやれたね」といった言葉をかけ続けるだけで、チームの雰囲気は驚くほど変わります。

会議でも、「メンバーの発言を否定しない」というルールを自分に課してください。「そんなの意味ないだろう」などの否定的な発言はNG。どんな意見も「なるほど、それもあるね」と、すべてホワイトボードに書き出してください。

メンバーは、自分の発言が拾い上げられたことで、「認められた」と感じます。すると、いつもは黙っていた人も積極的に発言し、アイデアを出すようになります。メンバーの意識が変わり、チームの生産性が確実にアップするのです。

 

仕事を任せられない理由を具体的に“見える化”する

このように、メンバー全員が安心して働ける環境をつくることが管理職の仕事であり、部下と一緒にクライアントを回ったり、資料の作成を手伝ったりすることがメインの仕事ではありません。

ところが、40代管理職のなかには、メンバーの仕事を手伝うどころか、「自分でやったほうが早いから」と、最初から仕事を自分で抱え込む人が少なくありません。

もし「メンバーに仕事を任せられない」と思うなら、その理由を"見える化"してください。メンバーごとに、どのスキルがどの程度足りないのかを具体的に書き出すのです。さらに、半年後、1年後、5年後に、その人にどうなってほしいかも書きます。

多くのリーダーは、現在のメンバーの能力がその人の限界だと思い込んでいますが、その人が5年後もいまのスキルのままではチームの生産性は上がらず、リーダーとしても困るはず。ですから、リーダーは各メンバーにどう成長してほしいのかを考え、戦略的に育成する必要があります。

たとえば、「AからBまでの仕事は任せられるが、彼にはCの仕事に必要なスキルが足りないので任せられない。でも、1年後にはCの仕事ができるようになってもらわないと、チームとして困る」という現実を見える化すれば、リーダー自身も「彼にCの仕事を渡し、練習させておくしかない」と納得できます。

スキルが未熟なメンバーに仕事を任せることを非効率的だと考える人もいますが、メンバーがいまのスキルのままで10年間を過ごすほうが、どれだけ非生産的でしょうか。

仕事を任せるといっても、丸投げするという意味ではありません。サポート型マネジメントにおいては、管理職が日常的にメンバーを観察し、何かあればすぐに対応するというコミュニケーションが必要です。

そこでお勧めしたいのが、「朝メール」「夜メール」です。やり方はいたって簡単。「朝メール」は、毎朝各メンバーからその日の予定をメールで送ってもらい、チームの全員で共有します。

メールが送られてきたら、マネージャーは時間の見積もりと優先順位を確認します。もし「資料作成で3時間」と書かれていたら、「今日つくる資料は叩き台程度でいいから、1時間でまとめたものをみせて」といった指示ができます。

また、急ぎではない仕事に高い優先順位をつけている場合も、明日以降に回すなどの変更を指示できます。「夜メール」は、実際にした業務の報告です。その日の「朝メール」に「時間見積もりと実際にかかった時間の差異」「反省点とよかった点」「翌日の予定」を追記して送ってもらい、マネージャーは承認とアドバイスを返します。

この「朝メール」「夜メール」をチームの習慣にすれば、メンバーの活動状況と成果をデイリーでみられるので、「昨日、受注が取れたな。おめでとう」とすぐに褒められます。

「顧客のニーズに自社商品では対応できなかった」などの報告に対しても、「こんな商品もあるから、これで提案してみて」と、マネージャーのもつノウハウで即座にフォローできます。

これを月に1度の営業会議で初めて知らされたら、いくらマネージャーが「うちの商品でも対応できたのに」といってもすでに手遅れ。何時間もかけてできなかったことの言い訳をし合う会議は、仕事の効率的にもムダが多すぎます。

「朝メール」「夜メール」を提案すると、「そんな面倒なことを」と抵抗する管理職も多いのですが、そんな方には、もう一度、「マネジメントの役割は、各メンバーのもつ能力を最大限に発揮させ、チームとして成果を出すこと」という本質に立ち戻ってほしいと思います。

メンバーのサポートや育成にいまの倍の時間をかけたとしても、それで成果が出るなら、何の問題もありません。

チームの成果を最大化する時間の使い方をすることが、結果的に、マネジメントする管理職自身の負担を減らし、仕事の効率化につながるのです。

 

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