"人生の主人公として「100年ライフ」をワクワク、楽しめる社会を創る"をビジョンとして、「人生100年時代」の個人のライフデザイン支援をテーマとしたコンテンツ開発やワークショップ、1on1型ダイアログなどを提供するライフシフト・ジャパン(株)。
今回は、「60歳からの人生」を考える上で見直すべき価値軸について紹介します。
※本稿は、『THE21』2023年7月号~11月号に連載した「40代・50代からのライフシフト実践講座」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
今回、ご紹介する第3法則は「自分の価値軸に気づく」です。
様々な意味合いで使われる「ライフシフト」という言葉ですが、共通するのは、生き方や働き方、暮らし方に関係する何らかの意識と行動の変化でしょう。その変化の本質は、突き詰めれば「これから何を大事にして生きていくのか?」という問いに行き着きます。
私たちは、この問いに答えるためのフレームワークとして「価値軸」という言葉を使っています。もちろん、一般的な「価値観」という言葉で捉えていただいても問題ありませんが、しっかりと"軸足"を固め"自分軸"で考え、意思決定することを意識してもらうために、「価値軸」という言葉を選びました。
「ライフシフト」の本質は、転職や独立、移住といった外形的な目に見える変化ではなく、一人ひとりの意識の中の「価値軸」の変化なのです。
本稿を読んでいただいている40代・50代の読者の皆さんの多くは、これまでの人生を振り返り、これから先の人生に向けて、何らかの変化の必要性を感じているのだと思います。そんなときに判断の基準となるのが「価値軸」です。
「何を大事に生きていくのか?」という問いに対しては、誰もが感じるそれぞれの想いがあるでしょう。そうした個々の想いを共通のフレームワークとするために、大きな3つの領域に整理・統合したのが第3法則「自分の価値軸に気づく」です。
「価値軸」の3つの領域は、以下のように構成されています。
・社会価値
社会のどのような領域で、何を思い、何を成し遂げ、社会からどのようなフィードバックを受けたいと考えるかをテーマとした価値軸です。
・個性価値
仕事や担っている役割において自分の能力が活かせているか、自身の志向や動機、欲求とフィットしているかをテーマとした価値軸です。
・生活価値
日々の生活において何を大切にするか、どのようなコミュニティと関わりを持つかといった、時間や生活環境をテーマとした価値軸です。
ライフシフト・ジャパンが主催するワークショップ「LIFE SHIFT JOURNEY」では、この3つの領域に設定した合計18の「価値軸」と向き合い、「これまで大事にしてきた価値軸」と「これから大事にしていきたい価値軸」をセレクトしてもらう「価値軸カードワーク」というプログラムを実施しています。
このワークでは、「これまで」と「これから」ですべての価値軸が入れ替わる人もいれば、いくつか変わらない価値軸を持ちながら、一部の価値軸が入れ替わる人、いくつかの新しい価値軸が加わる人など、実に様々な価値軸の変化を見ることができます。
ワークショップに参加された方々の「価値軸」の変化をいくつかご紹介していきましょう(ちなみに、「価値軸カードワーク」で使うワークシートには、「これまで」「これから」それぞれに6つの「価値軸」をセレクトできる枠が設定されています)。
定年を間近に控えた銀行員のAさん(男性)は、18の「価値軸」と長い時間向き合い、かなり悩まれたうえで、「これまで大事にしてきた価値軸」には『責任を果たす』ただ1枚をセレクトされました。
その後の対話の中で、「銀行員としての自分のこれまでの人生を振り返ると、そこに浮かび上がってくるのは、まさにこの1枚しかないのです」と話されていたのが印象的でした。
その一方で、「これから大事にしていきたい価値軸」には『自分らしく』『夢中になれる』『自分の時間』『好きな場所で』など、実に多彩な「個性価値」と「生活価値」のカードが並んでいました。大きな環境の変化を前に、Aさんの心の中では、すでにライフシフトが始まっているのだと感じました。
仕事と子育てに必死に取り組んできたBさん(女性)が選んだ「これまで大事にしてきた価値軸」は、『誰かのために』『責任を果たす』『家族とともに』『仕事も生活も』『経験と能力を活かす』。仕事と育児の両立のためにすべての時間を捧げてきた生活が目に浮かぶようなセレクトです。
そんなBさんが選んだ「これから大事にしていきたい価値軸」は、『自分らしく』『自分の裁量で』『自分の時間』『心穏やかに』『好きな場所で』など。
「これから大事にしていきたい価値軸は、『自分』だらけになっちゃいました」と笑うBさんもまた、子育てから解放される人生の新しいステージに向けて、大きな「価値軸」の変化の真っただ中にあるのだと思います。
企業で経営企画や新規事業開発に取り組んできたCさん(男性)の「これまで大事にしてきた価値軸」は、『何かを生み出す』『社会に貢献』『社会を変えたい』『気になるテーマで』『経験と能力を活かす』『自分の裁量で』。新しい事業の創造に向けたCさんの熱意と情熱が感じられるセレクトでした。
ほとんどの「価値軸」は、「これから」も変わらないというCさんでしたが、そこにはいくつかの新しいカードが加えられていました。『地域のために』『地球にやさしく』『仲間とともに』『家族とともに』。
「価値軸カードと向き合う中で、これまではビジネスの世界での成功や評価に意識が集中しすぎていた自分に気がつきました。これからはもう少し視野を広げ、地球環境や地域社会、仲間や家族といった人間関係にも気を配っていきたい」と言うCさんは、「価値軸」と向き合うことで、ライフシフトの一つのきっかけを見つけたのかもしれません。
小さい頃に母親を亡くし、親に迷惑や心配をかけてはいけないとの思いを抱えて生きてきたというDさんは、大きな新規プロジェクトを成功に導いた後、ワークショップに参加されました。「これまで大事にしてきた価値軸」は、『誰かのために』『社会に貢献』『社会を変えたい』など。
「これまでの自分の人生は、誰か他者のためにという意識がすべてだった」というDさんは、「これから大事にしていきたい価値軸」では『自分らしく』『夢中になれる』『自分の裁量で』『仲間とともに』など、すべて「個性価値」のカードをセレクト。
「このワークを通して、誰かのために生きてきたこれまでの自分をしっかりと認めることができました。自分は頑張ってきたなと。
だからこそ、これからは『個性価値』に目を向け、自分らしく生きていきたいと思います」。そう語るDさんは、大切にしたい「価値軸」を意識的に変化させることで、まさにライフシフトをスタートさせたのでした。
ワークショップ参加者の「価値軸」の変化を見ていると、変化するタイミングは、実に様々であることがわかります。
AさんやBさんのように、大きなライフイベントや環境の変化を受けて「価値軸」を大きく変化させようとするケースもあれば、CさんやDさんのように「価値軸」と向き合うことで意識的に「価値軸」を変化させ、それが起点となってライフシフトがスタートするケースもあります。
もちろんワークショップ参加者の中には、「今は、価値軸が大きく変化するタイミングではないと思う」という方もいます。しかし、そんな方でも「例えば、5年後、10年後に向けて、大事にしたい価値軸は?」と聞けば、いくつかの気になる新しい「価値軸」が浮かび上がってきます。
「価値軸」は、日々の生活の中でコロコロと変わるものではないでしょう。しかし、一方で、人生の転機や大きな変化は、何らかの「価値軸」の変化を伴うものであることは間違いありません。
そうだとすれば、自分自身に対する「これから何を大事にして生きていくのか?」という問いかけを通じて、自身の「価値軸」の変化に常に意識を向けていくことは、将来のライフシフトに向けて、とても大切なリフレクション(内省)の習慣になっていくことでしょう。
日本では、長年にわたって「60歳定年制」が定着してきたことや、「還暦」を祝う習慣の影響もあってか、「60歳」という年齢は、様々な意味で人生の一つの「区切り」として今でも強く意識されているように感じます。
65歳までの雇用延長や「70歳就業法」の施行など、雇用期間を延長する環境が整備され、実際に60歳以降の就業率も高くなってきている現在、60歳を「引退」のタイミングと考える人は少なくなってきていると思われます。それでも、「60歳」という年齢はいまだに人生の大きな節目と考えられているでしょう。
本稿をお読みいただいている40代・50代の方々の中にも、「60歳までの人生」と「60歳からの人生」の区切りをライフシフトのタイミングと想定されている方は多いのではないでしょうか。
大切なのは、「最終的な判断は、60歳になってから考えればいい」と決断を先延ばししないこと。また、「60歳までの人生」と「60歳からの人生」を切り離された別々の人生ではなく、つながっている一つの人生として意識し、「60歳からの人生」を決めるのは、それまでの「60歳までの人生」であることをしっかりと認識することです。
そして、将来の自分の「ありたい姿」を想い描き、自身が大事にしたい「価値軸」を言語化し、その「価値軸」を実践するための可能性を探る行動(スモールステップ)を始めることです。
まずは、「これから大事にしていきたい価値軸」を考えることから、始めてみませんか?
更新:11月21日 00:05