デジタルの最先端は米中だと言われるが、日本が学ぶべきは「東南アジア」である.....。そう主張するのは、シンガポールにてコンサルティングを行う坂田幸樹氏だ。なぜ今、東南アジアから学ぶべきなのか。日本と東南アジアとの共通点と大きな違いとは?
本記事のテーマは、「デジタル・フロンティアで起きているイノベーションから、日本が変革するためのヒントを得ること」である。
デジタル・フロンティア、つまり「デジタルの最先端」というと、米国や中国を思い浮かべる読者が多いのではないだろうか。
実際、米国のシリコンバレーは多くのスタートアップを生み出し、グーグルやアップルなどは日本にいる私たちの生活さえも大きく変えた。中国も電子マネーや信用スコアなどデジタルの最先端を走っており、世界を代表するイノベーション都市となった深圳には、数年前から自動運転タクシーが走っている。
しかし、本記事で紹介するデジタル・フロンティアとは米国でも中国でもない。それは「東南アジア」である。
もちろん、米国や中国がデジタルの最先端であることは確かである。しかし、米国や中国のイノベーションについて、私たち日本人が学ぶことはどれだけあるのかと考えたとき、東南アジアから学ぶことのほうが圧倒的に多いというのが、私の考えだ。
日本が停滞しているといわれて久しい。そして、その停滞の本質的な問題とはずばり、既得権益を生み出しているさまざまな制度である。
少子高齢化による労働力不足や社会保障費の増大などが日本の本質的な問題のように語られがちだが、一方で、世界には人口増による食糧不足や失業率の上昇で頭を抱えている国がたくさんある。日本はそうした問題を解決してきたことで、先進国の地位を手に入れた。
要は、環境の変化が問題なのではなく、環境に適応できなくなっていることが、日本の最大の問題なのである。そして、それを阻害しているのが、さまざまな制度によって守られている既得権益である。
たとえば諸外国に比べて高い業界の参入障壁や、デジタルによる新しい仕組みを導入しようとする際の手続きの煩雑さ、あるいは実証実験に対するハードルの高さといったものである。これらの多くは、旧来型の企業や零細企業を守るために設けられている。
なお、ここでいう制度には法律や規制、人事制度や組織図のような形式制度のみならず、社会的な規範、文化的な信念など、明示的に規定されていない非形式制度も含む。そして、日本の既得権益を支えているのは多くの場合、非形式制度なのである。
たとえば、戦後の高度成長期に非形式制度となった終身雇用は、正規社員の既得権益を生み出している。また、年功序列は、勤続年数が長い社員ほど高い地位や報酬を得ることができるという既得権益を発生させた。
これらが雇用の流動性を阻むとともに、挑戦する風土を失わせ、日本企業でイノベーションが起きにくくなっている要因の1つになっている。
あるいは、全国1700以上の地方自治体に分散する戸籍データベースもまた、既得権益だといえるだろう。これがあるため、マイナンバー1つ導入するのに日本を代表する頭脳たちが苦戦を強いられている。
こうした既得権益は、トップダウンでの変革をしやすい米国や中国で問題になることはあまりない。しかし、東南アジアは違う。国による程度の差こそあれ、日本と同等か、ひょっとするとそれ以上の既得権益が、世の中を縛っている。
基礎インフラが整っていない新興国では、いわゆる「リープフロッグ現象」が起きるといわれる。固定電話が普及していなかったがために、携帯電話が先進国よりも一気に広まるといった逆転現象を指す。
確かに、東南アジアもB2Cに関してはそのような側面はあるが、ことB2Bについては日本と同じように中小企業や零細企業が多く、変革を阻む多くの既得権益が存在している。
しかし、それをデジタルの力で見事に突破する事例が数多く現れている。
本記事で扱う東南アジアの先端事例は、いわば「ボトムアップのイノベーション」だ。ただ単にデジタル技術を使うのではなく、現場の地道なオペレーション改善を通してデータを取得し、そのデータの力を使って既得権益を壊し、産業全体の変革を起こしているというものである。
企業名を挙げれば、シンガポールのスワット・モビリティ、インドネシアのゴジェックなどである。こうした企業は米国のGAFAMや中国のBATといった巨大プラットフォームではないが、地域に根差したボトムアップによるイノベーションで、社会を確実に変えつつある。
だからこそ、同じく既得権益に悩む日本にとって、GAFAMやBAT以上に参考になるはずだ。
たとえば、近年日本でも議論を呼んでいるライドシェアだが、東南アジアでライドシェアを提供しているゴジェックは、豊富な労働力をテコにして、従来型タクシーの代替サービスとして事業を拡大させた。
さらに、ゴジェックは単なる人間の移動手段にとどまらず、決済手段、Eコマースやフードデリバリーなどの提供も始めることでスーパーアプリへと変貌を遂げた。
また、そこにとどまることなく、ゴジェックと連携しているスタートアップは、パパママショップ(個人経営の小型店舗)から集めたデータを有効活用することで、多層化したサプライチェーンの解消などに取り組んでいる。
また、スーパーアプリを通してゴジェックが集めた消費者の行動データは多岐にわたっており、それら資源を活かすことで、街づくりのあり方を根底から覆すことさえも可能だ。
既得権益がありながらもデジタルの力でそれを克服している東南アジアの事例は、日本にとっても大いに参考になるはずである。
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更新:12月10日 00:05