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使いすぎても、手放してもストレスに...現代人が陥る“スマホ依存”の実態

2023年07月05日 公開
2023年12月08日 更新

アンデシュ・ハンセン(精神科医)

 

スマホの最大の影響はそれ以外の時間を奪うこと

スウェーデンでは、100万人近く、9人に1人以上の人々が抗うつ薬を服用しているが、この薬の使用はここ10年で急激に増加した。同じ時期に登場したのがスマホだ。

サウジアラビアの研究者が1000人以上を対象に行なった調査では、スマホ依存とうつには、「警戒すべきレベル」の強い相関性があると結論づけられた。中国でも、スマホをよく使う大学生は孤独で自信がなく、うつが多いことが確認された。同じような調査結果は、世界中でいくつも挙がっている。

スマホがうつになる危険性を高めるのは明白だ。だが、スマホを使い過ぎるからうつになるのか、うつの人がスマホをよく使うのかは定かではない。

私自身は、「過剰なスマホの使用は、うつの危険因子の一つである」と考える。睡眠不足、座りっぱなしのライフスタイル、社会的孤立、そしてアルコールや薬物の乱用も、やはりうつになる危険性を高める。

SNSを利用することで常に自分と他人を比較するようになってしまうなど、スマホの使い過ぎそのものがストレスを引き起こすこともあるが、スマホが及ぼす最大の影響はむしろ、「時間を奪うこと」かもしれない。

スマホ依存がそれ以外のことをする時間、特に心の不調から身を守るのに効果的な、睡眠・運動・人づき合いの3つの要素の時間を奪ってしまうのだ。

 

スマホを寝室に置くと睡眠時間が短くなる

睡眠は、脳の掃除、健康の維持、情緒の安定や記憶の定着、学習といったもののために非常に重要だ。

ところが、「眠れない」と精神科を受診する人の数は爆発的に増え、今ではスウェーデン人のほぼ3人に1人が睡眠に問題があると感じている。睡眠時間もどんどん短くなっている。そして同じ傾向が、多くの国で見られるのだ。

600人以上の被験者を観察した研究では、スマホなどのスクリーンを見ている時間が長い人ほど、よく眠れなくなるという結果が出た。特に、夜遅くにスマホを使うと影響が大きくなった。眠れなくなるばかりでなく、眠りの質も落ちる。そして当然、翌日に疲れている可能性も高まる。

スマホは傍にあるだけで集中や記憶を妨げることがわかっているが、睡眠にも同じ影響があるようだ。

小学校高学年の児童2000人に、ベッド脇のテーブルにスマホを置いて寝てもらったところ、スマホを傍に置かなかった児童よりも、睡眠時間が21分短かった。寝室にテレビがある場合も睡眠時間は短くなるが、スマホの影響はテレビよりも大きい。

さらに深刻な影響を示す調査もある。保護者に子どもの睡眠時間を調べてもらった調査では、スマホを寝室に置いている子どもは、そうでない子どもに比べて、1時間も睡眠時間が短かったのだ。

 

SNSに時間を使うほど幸福感は減ってしまう

運動と人づき合いの時間が減っていることも問題だ。

身体を動かすと、身体はもちろん、心の健康にもプラスに働く。それどころか、基本的にはすべての知的能力が、運動によってその機能を向上させることがわかっている。身体を動かすことは、集中力や記憶力を高め、ストレスや不安への耐性をつけてくれる。

ところが、私たちの運動量はどんどん減っている。1日に歩く歩数は10年ごとに減り、スウェーデン人の平均的な体力は90年代から11%下がり、現在は大人の半数近くが、健康に害が及ぶほど身体のコンディションが悪い。

運動量の減少幅は、実は若い人のほうが大きい。14歳の運動量は、2000年頃と比べると、女子で24%、男子で30%減っている。その一番の理由は、スクリーンばかり見ているせいだ。

また、私たちは、人と会うと、それがインターネット上でもリアルでも、気持ちに影響が出る。

5000人以上に身体の健康状態から人生の質、精神状態、時間の使い方まで様々な質問に答えてもらった調査では、本当の人間関係に時間を使うほど、つまりリアルに人と会う人ほど、幸福感が増していた。一方で、SNSに時間を使うほど幸福感が減っていたのだ。

研究者たちは、「私たちはSNSによって、自分は社交的だ、意義深い社交をしている、と思いがちだ。しかし、それは現実の社交の代わりにはならない」と結論づけている。

 

著者紹介

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)

精神科医

1974年生まれ。スウェーデン・ストックホルム出身。スウェーデンで国民的人気を得た精神科医。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得し、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『最強脳』『ストレス脳』(以上、新潮新書)、『一流の頭脳』『運動脳』(以上、サンマーク出版)が世界的ベストセラーとなる。

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