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「パソナ淡路島移転」の現在...食や文化、知られざる“地方創生の取り組み”

2023年07月04日 公開

THE21編集部

明石海峡大橋
本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋は1998年に開通し、世界最長のつり橋としてギネス認定されている。

2020年9月、コロナ禍でリモートワークが広がるさなか、パソナグループ(以下パソナ)が東京本社機能の一部を同社が地方創生を進めていた兵庫県の淡路島に移転し、2024年までに管理部門1,800人のうち1,200人分の業務を移転させる計画を発表して関係者を驚かせた。それから3年が経ったいま、本社移転プロジェクトはどこまで進んだのか。同社の淡路島オフィスを訪れた。

 

古代の淡路島と令和の淡路島

淡路夢舞台
『淡路夢舞台』は、島内の土砂採掘場跡地(関西国際空港の建設用土に使われた)の禿山の再生事業から生まれたもので、各施設が遊歩道やデッキで結ばれ、回遊式庭園の構造となっている。(C)Awaji Yumebutai All rights reserved.

淡路島は、関西有数のリゾート地であるが、関東圏の人にとってはなじみが浅く、それゆえパソナの本社機能移転がビッグサプライズであるがごとくメディアに取り上げられたようにも思える。

淡路島は、『万葉集』のなかで「朝なぎに楫(かぢ)の音(おと)聞こゆ御食(みけ)つ国野島(のしま)海人(あま)の舟にしあるらし」(山部赤人)と詠われたほど歴史が古い島である(御食国とは、天皇に食材を献上する国という意味)。

淡路島の野島の漁夫が舟を漕いでいる情景を詠ったものであり、古代から淡路島は、大和朝廷の支配下にあって産物を都に送っていた。平安時代の『延喜式』には、海産物だけでなく、鹿、猪、米に加えて、蘇(そ)という古代の乳製品を朝廷に献上した記録も残っており、古くから食の恵みにあふれた土地である。

神戸の三宮からクルマで西へ走り、明石海峡大橋を渡ると約40分で淡路島に到着する(関西各所から高速バスが出ており、明石から船でもアクセスできる)。

パソナの主要オフィスのひとつは、島の北東端の東浦地区の『淡路夢舞台』という第三セクターの複合施設内にある。国際会議場やリゾートホテル、野外劇場、植物園などが点在している。

設計は、建築家の安藤忠雄氏。その空間はコンクリートの打ちっ放しを光と影であやつる"安藤建築"そのものであり、オフィスというよりもモダンな美術館である。同社はその一角をオフィスとして使っている(島内には他にもオフィスが複数ある)。  

 

社会貢献起点とパソナスピリット

のじまスコーラ
『のじまスコーラ』は卒業生の小学校時代の記憶を残しながら再生されている。

パソナの淡路島の地方創生は、本社機能移転によって突然始まったものではなく、その源流は、1995年の阪神・淡路大震災までさかのぼる。

同社の創業者・南部靖之代表はもともと神戸出身であり、震災翌年に業績不振で撤退した神戸ハーバーランドの『神戸西武』の跡地を借り上げて『神戸ハーバー・サーカス』という商業施設を急ごしらえし、96年から2004年迄に被災した市民を中心に雇用創出に尽力した。

当時、パソナは、東京本社建築を計画していたこともあり、社内には慎重論もあったが、南部代表の掛け声で社員の半数以上がボランティアとして復興事業にかけつけた。

南部代表の復興事業にかける思いは強く、創業以来、「社会の問題点を解決する」を錦の御旗に成長してきたベンチャー企業の"パソナスピリット"を感じさせるエピソードそのものであり、淡路島の地方創生に真っ先に手を挙げたのもうなづける。  

淡路島の地方創生に勢いが出始めたのは、『ジャパンフローラ2000』(通称:淡路花博)からである。

2008年、パソナは人材事業のノウハウを活用した独立就農支援の取り組み『パソナチャレンジファーム』を皮切りに、2012年には閉校した小学校を活用した地元農産品のマルシェやレストランなどの複合施設『のじまスコーラ』を開業。

その他観光施設を次々と建設した。その後、2014年4月から明石海峡大橋の垂水―淡路間の通行料が大幅値下げされたことが起爆剤となり、島への観光客の流入が加速した。  

ニジゲンノモリ
『ニジゲンノモリ』『HELLO KITTY SMILE』はクールジャパンに魅せられた外国人観光客が多く集まる。

2017年には、クールジャパンやインバウンドを意識したエンターテイメント施設である二次元コンテンツのアニメパーク『ニジゲンノモリ』を開業。2018年に人気キャラクター「ハローキティ」が体感できる『HELLO KITTY SMILE』 など、ほぼ毎年のように観光施設をオープンさせている。

HELLO KITTY SMILE

淡路島の西側は、一昔前までは手つかずの海岸線であったが、いまではアメリカのそれに倣って『西海岸』と呼んでいるという。西海岸には、パソナ直営だけでなく、全国からテナントが続々と集結しており、よくある大型マンションが乱立するデベロッパーの街づくりとは異なり、住宅施設よりも商業施設、つまり"仕事づくり"(雇用創造)が先行しているのがパソナ流といえる。

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