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「パソナ淡路島移転」の現在...食や文化、知られざる“地方創生の取り組み”

2023年07月04日 公開

THE21編集部

 

豊かな食の追求と持続可能社会

農家レストラン『陽・燦燦』
農家レストラン『陽・燦燦(はるさんさん)』では、新鮮な地元食材の料理の提供はもちろんのこと、「収穫体験」や「茅葺体験」などのプログラムも随時開催されている。

パソナの地方創生の特徴は、観光事業創出もさることながら農業ベンチャーにも象徴される。パソナが農業分野に着目したのはITバブルがはじけた2001年である。大企業を中心とした大規模リストラで大量のシニア失業者が出た際、新たな雇用創造を求めて過疎地の農業人材育成に着目した。

2003年、秋田県大潟村で『農業インターンシッププロジェクト』をスタートし、都会の中高年から希望者を募った。翌年からは若者にも募集枠を広げ、青森、栃木、和歌山、淡路と事業拡大し、2007年には『Agr-MBA農業ビジネススクール農援隊』を開講。のべ2万人近くの農業人材を育成輩出してきた。

パソナの農業推しはとどまるところを知らず、2005年には、東京・大手町の銀行の地下金庫跡に地下農園『PASONA O2』を開設。太陽光が届かない地下室で水田や多種多様な野菜・植物を栽培して注目を集めた。

2017年には大手町のビルの上層階に酪農人材育成や子供の食育拠点として『パソナ大手町牧場』を開設し、都心のビルから酪農の情報発信を行う会社として話題となった。

淡路島では、化学肥料や農薬を使わずに野菜などを育てる栽培方法を強力に推し進めている。2021年には、自社栽培の野菜や地産地消の料理を提供する農家レストラン『陽・燦燦(はるさんさん)』をオープンした。「御食国」の淡路島にふさわしい地方創生といえる。

 

パソナが挑戦し続ける人材の多様化

禅坊靖寧(ぜんぼうせいねい)
『禅坊靖寧(ぜんぼうせいねい)』は、禅体験やヨガができる宿泊施設。建築家の坂茂氏が自然の景観を損なわないように設計した。健康がテーマで、食事は朝がゆ、昼は豆腐、夜はこんにゃく料理を提供する。

かつて昭和の名経営者であるパナソニック創業者の松下幸之助氏は、「一人一業の主人公」「一億通りの生きがい」という言葉を残している。誰もが自分の仕事の主人公であるべきであり、それこそが生きがいの本質であると説いたのである。

そして松下幸之助は一人ひとりの叡智を結集させることを「衆知経営」と考えた。パソナが創業以来、数多の「新しい働き方」のパイロットモデルを創り出してきたのも、一人ひとりの働き方や人生を充実させてほしいとの願いが発想の起点となっており、その意味では、パソナの地方創生は一億人の国民に一億通りの働き方を提供する壮大な国家事業とみることもできる。  

戦後の日本人は焼け野原の状態からひたすら前だけを向いて画一的かつ効率的に働き続けてきたが、もちろん直線的に生きるだけが仕事人生ではなく、とくに先般のコロナ禍は、ときに立ち止まり、振り返ることが必要であることを皮肉にも日本人に教えてくれた。

禅坊靖寧(ぜんぼうせいねい)

今回の淡路島への取材でひときわ印象的だったのが、『禅坊靖寧(ぜんぼうせいねい)』という禅体験ができる宿泊施設である。

幼少期に近所のお寺に通い、情操教育を受けたという南部代表は、仏教学者として禅を世界に広めた鈴木大拙氏からも影響を受けており、建築分野の国際的な賞であるプリツカー賞を受賞した建築家・坂茂氏に同施設の設計を依頼した。谷に向かって大きくせり出す空中庭園のような禅坊靖寧に身をゆだねると、あらゆる雑念から解放されて至極のリラックスが味わえる。  

禅坊靖寧(ぜんぼうせいねい)

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