2023年05月22日 公開
今年で5年目を迎える日比谷音楽祭。その実行委員長を務めるのが、J-POPの最前線で活躍し続ける亀田誠治氏だ。亀田氏は音楽プロデューサーである傍ら自身もベーシストとして活動を続け、どんな現場でも出し惜しみは絶対にしないという。その仕事に対する心がけについて話をうかがった。
(取材・構成:前田はるみ、写真撮影:遠藤宏、ヘアメイク:大谷亮治)
※本稿は、『THE21』2023年5月号に掲載された「目の前にある音楽に貢献するために、常に『全亀田』を投入しています」を一部編集したものです。
――亀田さんはベーシストとしてご自身も演奏されると共に、数々のアーティストのプロデュースも手掛けられています。プレイヤーとしての活動とプロデューサーとしての活動、それぞれの活動で大事にされていることはありますか。
【亀田】いい質問ですね。プレイヤー亀田誠治とプロデューサー亀田誠治の違いをよく質問されますが、実は根っこは同じで、「目の前にある音楽に貢献したい」ということだけです。
ベーシストとしては、自分のプレイでその曲が最も輝くようにしたいし、プロデューサーとしてアーティストにかかわるときは、その楽曲やプロジェクトがそのアーティストにとって最高の音楽になるように全力を尽くします。
ただし、ちょっと複雑なのは、タイアップなど第三のクライアントがついて、そこからも強いリクエストをいただくケースがたくさんあります。その場合は、間に入ってお互いの言い分を聞き、アーティストの楽曲も最高にしながら、クライアントのリクエストも叶えるのが僕の仕事です。
時々、「クライアントの注文に応えるなんて、音楽の魂を売ってることにならない?」と聞かれますが、そんなことはありません。
例えば映画の主題歌でいえば、映画サイドには彼らの言うクリエイティビティの本質があり、アーティストにはアーティストの作りたい音楽性がある。両方のいいところを結びつけることで楽曲が良くなるなら、僕は「よかれ」と思ってそれをやるだけです。
なので、プレイヤー亀田誠治もプロデューサー亀田誠治も、気持ちは同じで「よかれ産業」と「全亀田を投入する」。どの現場でも出し惜しみは絶対にしません。「これは他のアーティストのためにとっておこう」なんてことは絶対にしないです。
――出し尽くして、枯れてしまうことはありませんか?
【亀田】非常にいい質問ですね!(笑)。全部出すから風通しがいいというか、空っぽにしておくと、入ってくるものも多いんです。だから枯れないです。
それに、出会った人たちや作品は財産として残ります。それを考えると、「次はどんな新しいことにトライしようか」と気持ちがシフトしていく感じです。
――最近トライされた新しいことはありますか?
【亀田】数年前には『糸』という映画のオリジナル・サウンドトラックを手掛けたり、去年は日本初上陸のブロードウェイミュージカル『ジャニス』の総合プロデュースを務めました。この歳でもまだ、できないことや、やったことのない仕事がたくさんあるんです。
初めての仕事には不安はありません。そもそも僕のキャリアや音楽性を見込んでオファーしてくれているはずですし、もちろん人間性でも愛されて頼まれるケースも多いんですが(笑)、自分にオファーが来た時点で「自分の伸びしろ」だと考えるようにしています。
――プロデューサーとして、アーティストとのコミュニケーションで心掛けていることはありますか。
【亀田】まずは、相手の言い分を全部聞く、ですね。少しずつしか話せない人もいるので、その場合は時間をかけて聞いていきます。僕、人の話を「うん、うん」とひたすら聞くのが好きなんです。その先に生まれる景色が大切だから、全然苦痛でない。なので、「うなずきの亀」と呼ばれています。
――自分の意見を伝えたくなる場面もあると思いますが。
【亀田】そのときは言います。ただし、頭ごなしに言うのではなく、相手の言い分を全部受け入れたあとで言います。あるいは、ステップを踏んで伝えることもよくあります。
例えば、アーティストに「この曲はダメだ」と伝える場合でも、僕はいきなり伝えることはしません。「この曲はどんな歌詞にしたい?」などと聞いてみて、「恋愛の歌というより、もっと多くの人に届く曲にしたいです」と返ってきたら、「だったら、この曲ではスケールが小さいかもしれないね」と。
これまで様々なアーティストと対話してきたので、どの時点で「よかれ」が発動するのか、直感的にわかるんですよね。
――今のお話は、部下の育て方に悩んでいる中間管理職の読者の方々にも非常に参考になると思います。最後に、亀田さんと同世代の読者に向けてエールをお願いします。
【亀田】僕の大好きな言葉を紹介したいと思います。妻の実家のある宮崎の、とある居酒屋に行ったとき、湯呑に書いてあったあるひと言に感動しました。「子ども叱るな来た道だ、年寄り笑うな行く道だ」。
中間管理職の方々は、若い世代と上の世代に挟まれて苦労も多いとは思いますが、すべての世代や人間はつながっています。新しい時代を作っていく若者を信じ、茨の道を切り拓いてきた先達に敬意を払えば、すべていい方向に進んでいくと思いますよ。
■日比谷音楽祭(https://hibiyamusicfes.jp/2023/)
~新しい循環をみんなでつくる、フリーでボーダーレスな音楽祭~
・2023年6月3日(土)-4日(日)
・日比谷公園・サテライト会場 東京ミッドタウン日比谷
・入場無料
・出演アーティスト例:The Music Park Orchestra(日比谷音楽祭スペシャルバンド)、石川さゆり、WONK 他
■日比谷音楽祭クラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/HMF2023)
■野音100周年(https://yaon100.com/)
【亀田誠治(かめだ・せいじ)】
1964年生まれ。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆりなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。07年、15年、日本レコード大賞で編曲賞、21年には日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。近年は舞台音楽も手がけ、ブロードウェイミュージカル「ジャニス」の日本公演総合プロデューサーを務めている。
(『THE21』2023年5月号に掲載された「目の前にある音楽に貢献するために、常に『全亀田』を投入しています」より)
更新:11月21日 00:05