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鬼滅の刃『炎』作曲の梶浦由記「人生で一番行き詰まった...」それでもアニメ音楽を続ける理由

2023年04月18日 公開

梶浦由記(作曲家/音楽プロデューサー)

梶浦由記  アニメ音楽

90年代から今日まで、「魔法少女まどか☆マギカ」「鬼滅の刃」など数々の名作アニメで劇中音楽を手がけ、今月もソロプロジェクト「FictionJunction」で9年ぶりのニューアルバム「PARADE」を発売する作曲家の梶浦由記氏。バンドの一員としてデビューした梶浦氏が「アニメ音楽」にハマった背景には、深夜アニメ黎明期の「緩さ」と、梶浦氏自身が持っていた「好きだけど、作る場所がない音楽」の絶妙な噛み合いがあったという。(取材・構成:川端隆人)

※本稿は、『THE21』2023年5月号掲載「私の原動力」より内容を抜粋、取材内容をもとに再編集したものです。

 

劇中音楽やサウンドトラックには興味がなかった

今でこそアニメ作品の劇中音楽のお仕事がメインですが、実は最初は「See-Saw」というバンドでのデビュー。元々大の読書好きで、映画やテレビといった映像作品自体、あまり見るほうではなく、劇中音楽やサウンドトラックにはほとんど興味がありませんでした。

そこに突如、映画のお仕事が舞い込んできて......。なんでも、私の作ったとある曲を聞いた監督が、ぜひその曲を作中で使いたいと思ってくださったとのことで、ついでに他の部分の音楽も作ってみないか、と。

その頃の私はまだ「映画の音楽? そういえば、そんな仕事もありましたね」という感じで(笑)、どう作ったらいいかもわかりません。最初はただ漠然と情報量の多い音楽を作ろうとして四苦八苦していました。

そんな私を見かねてか、あるとき監督とお会いした際に「君はピアニストでしょ。このシーンに合わせてピアノを弾いてごらん」と言われたんです。

示されたモニターに映っていたのは、誰も声を発さないお葬式のシーン。そこで何気なく「ポロン」とピアノを弾いた瞬間、がらりとシーンの見え方が変わったのがわかったんです。

たった1つの和音だけで、これほど......。あの驚きは、今も忘れられません。「音楽って、こんなにもシーンに影響を与えてしまうんだ!」という怖さと面白さを同時に知った、強烈な体験でした。

それから「お声がかかるうちは、ぜひこの仕事を続けていこう」と思うようになり、その気持ちのまま今日に至っている気がします。

 

深夜アニメが持っていた「オペラ的」な展開

最初の実写映画のあと、またすぐアニメのお話をいただきました。当時はまだ、アニメが今ほど市民権を得ていなかった時代。参加に積極的な作曲家も少なく、私のように『スター・ウォーズ』も観たことがない若手にさえチャンスが回ってくるありがたい時代でした。

そうしてアニメの仕事を始めてみると......これがまた、衝撃的な体験だったんです。

私は、父の影響で子どもの頃からオペラが大好き。オペラの表現って、結構「大げさ」ですよね。泣くし、叫ぶし、悪役は高笑いするし、英雄はドラマチックなセリフと共に死んでしまう。当然、それに合わせる音楽も大げさなものになります。

デビューした頃は、そんな類の曲を自分が手がけることはないと思っていました。それが、アニメ音楽に取り組んでみたら......まるでオペラだったんです(笑)。悪役が高笑いするし、みんな感情が派手。主人公やその仲間が絶叫と共に死んでいくシーンも普通にあります。

加えて、深夜アニメ自体がまだまだ黎明期で、良い意味での「緩さ」があったのも大きかったですね。シーンの意図に合っていれば、耳なじみのない音楽でも受け入れていただけたんです。カッコ良いシーンができれば「音楽のジャンル」なんてどうでも良いよ、というような。

おかげで自分がかつて夢中になったオペラやワールドミュージック、つまり「好きだけど作ることはないだろう」と思っていた音楽の要素をどんどん取り入れることができて。

一作品ごとの曲数も膨大ですから、いくら自分の中から新しいものを探してきても、自分の持っている全部を出しても、まるで足りないくらいでした。こんな場所があったんだ、という衝撃と共に、「なんて楽しいんだろう」とすっかりハマってしまったんです。

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