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百田尚樹が実践している「つい引き込まれてしまう」雑談の秘訣

2023年04月11日 公開
2023年05月24日 更新

百田尚樹(作家)

 

「バーバリライオン」の衝撃的事実

ずいぶん前置きが長くなってしまいましたが、これは「話」にも通じることです。とはいえ雑談は落語の大ネタではないので、枕に凝る必要はありません。

大切なのは話のきっかけです。最初の一言で、周囲の人に「お、その話を聞いてみたいな」と思わせることができるかどうかです。

たとえば次に述べるバーバリライオンの話をするとして、そのつかみをどうするかを考えてみましょう。

かつて北アフリカにはバーバリライオンというとてつもなく大きなライオンがいました。別名アトラスライオンとも呼ばれるほどでした(アトラスはギリシャ神話の巨人の神)。最大は全長4メートル以上あったといいます。

一般的なライオンが3メートル前後、最大でも3メートル50センチくらいですから、桁外れの大きさです。体重も一般的なライオンの200キログラム前後に対して、300キログラム以上あったといいます。ところがこのバーバリライオンはローマ時代に見世物として大量に狩られます。

記録によれば、カエサルは400頭、ポンペイウスは600頭も、戦勝パレード用にローマに連れ帰ったとあります。また後にはコロセウムで人間と戦わせるために大量に捕獲されました。

その後も文明が発達するにつれてバーバリライオンの生息地は減少し、さらに近代には狩猟娯楽としてハンティングされ、個体数は激減しました。そしてついに1891年にアルジェリアとチュニジアからは姿を消し、1922年にモロッコで最後の1頭が射殺され、絶滅しました。最大のライオン(トラよりも大きい)が地球上から消え去った瞬間です。

ところが、それから90年後の2012年、モロッコで大量のバーバリライオンが発見されたのです。その場所はモロッコ国王ムハンマド5世の私設動物園でした。モロッコでは昔から国内の部族たちが王へ忠誠の証としてバーバリライオンを献上していて、王はそれを自分の動物園で飼育していたのです。

調査の結果、これらは純血種のバーバリライオンであることが判明し、ここにバーバリライオンは絶滅種のリストから外されました。絶滅が確定されてから50年以上経って再発見された動物は稀にいますが、個人が飼育していたケースはこれ以外にありません。しかもそれが伝説のバーバリライオンだったので衝撃的な事件でした。

 

聞き手に「その話を聞きたい」と思わせる

さて、この話を友人たちにするとして、どのように話し始めたらいいでしょうか?

「20世紀の初めに絶滅が確定してから100年近く経って、再発見された凄く大きな動物がいるのを知ってる?」

というストレートな話から入ってもいいし、

「ローマ時代にコロセウムで人間と戦ったライオンは、僕らが知っているライオンとはまったく違うライオンだったんだよ」

という話から入ってもかまいません。どちらも、聞き手の興味を惹くはずです。

私はこの話を友人たちに何度かしていますが、「トラとライオンが戦ったら、どちらが強いかと昔から言われているが―」という話から入ることがよくあります。

「最近、大阪の天王寺動物園に行った際、アムールトラとライオンを見たんやけど、見た瞬間にトラの勝ち、とわかった。こんなの実際に戦うまでもない。もう体の大きさが全然違う。柔道の重量級と中量級が戦うようなものや。ライオンは百獣の王と言われているが本当はたいしたことはない」

そう言うと、皆、へーという顔をします。そこで、こう続けます。

「なんでライオンが百獣の王なんて言われてたのか不思議やなあと思って調べてみたら、ローマ時代にバーバリライオンという化け物みたいな巨大ライオンがいたというのがわかった。今のライオンより1メートルも大きくて、トラよりも大きかったらしい。写真があって、それを見ても、今のライオンとまったく違う。あれを見たら、百獣の王というのも納得する」

ここまで喋ると、聞き手はもう興味津々です。あとはバーバリライオンが絶滅した話でショックを与えて、その再発見でさらに驚かせばいいのです。

他にも、もっと聞き手の興味を誘う「つかみ」はいくらでもあると思います。大事なことは、聞き手に「その話を聞きたいな」と思わせることです。

ちなみにローマ時代の格闘士とライオンの対決ですが、驚くことに人間の勝率の方が高かったということです。

 

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