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「聞こえづらい、匂いがしない」は注意が必要...40代から始める認知症予防

2023年03月27日 公開

浦上克哉(鳥取大学医学部教授、日本認知症予防学会代表理事)

 

「早期発見」できるかがカギ

私たちが今、最も力を入れている研究対象が、健康な状態から認知症になる間の段階、「軽度認知障害(MCI)」という状態の人たちです。

これは要するに、まだ認知症と診断されるほどには至っていないけれども、すでに認知機能は低下し始めている「認知症予備軍」の人ということ。

そのまま放置すれば、短い期間で本格的な認知症に移行してしまうことがわかっており、非常にハイリスクな状態として、現場では広く知られています。

このため、「認知症予備軍の人たちをいかに早く発見して予防につなげるか」が大きな課題なのです。現代の医学では、ひとたび認知症になってしまった人を完全に元に戻すことはできません。

しかし、認知症予備軍の状態であれば、まだ「可逆性」を残した状態と言われています。適切な対応をすれば、正常な状態に戻ることもあるようです。仮に戻せなかったとしても、予備軍の状態で踏みとどまることはできるでしょう。

私も、ご紹介したような運動や知的活動を体験できる教室を開催し、「予備軍」の方々にも積極的に参加してもらえるような取り組みを行なっています。

 

アロマセラピーで予防&早期発見

こうした教室運営の他、日頃から家でできる対策として、アロマセラピーによるものも紹介しています。

実は、アルツハイマー型認知症では、もの忘れよりも「嗅覚障害」のほうが先に起こるのです。その段階で良い刺激を与えてあげることができれば、記憶障害への進行を止める、もしくは遅らせることが期待できます。

それでなくても、日々感じていたはずの匂いが弱くなれば、違和感に気づくタイミングが早まるでしょう。

香りの内訳としては、昼間ならローズマリー・カンファーとレモンをミックスしたものが、神経細胞を活性化するのに有効なことがわかっています。

昼間に神経細胞を活性化したら、夜には疲れた神経細胞を休ませる必要があります。このための香りが、真正ラベンダーとスイートオレンジを配合した香り。睡眠に良い影響を与えるものです。

こう言うと、夜向けのアロマは昼向けのアロマよりも脇役のようですが、「夜向けのものも睡眠中のアミロイドβ蛋白減少を促進する」という研究結果が出ています。どちらも主役級と位置づけてよいでしょう。

ただ、アロマを認知症予防に活用する際にも守っていただきたいことがあります。それは、必ず「天然由来」のものを使用すること。化学合成したオイルには、長期間使用した場合の内臓等へのダメージが懸念されているものがあります。それを否定する研究もまだないのです。

最後に、認知症の「治療薬」についても少し触れておきましょう。過去数十年にわたり開発が続けられ、中には大きな期待を寄せておられるビジネスパーソンもいるかと思いますが、私の印象としては「悪戦苦闘」といったところです。

認知症は数十年かけて進行する病気ですから、診断が下りたときにはすでに脳神経細胞の7割前後が死んでしまっていることが多いのです。死んでしまったものを元に戻すことは、いかなる治療薬でもできません。

このため、治療薬の開発は、実質的に発症前の方に向けた「予防薬」の開発になりつつあります。「10年後には、認知症の治療薬が開発されているだろう」と楽観視してしまうのは、まったくお勧めできません。

予防薬ができる可能性があるからこそ、それ以前に認知症を発症してしまいかねない生活は改める、という選択肢を取ってほしいと思います。

【浦上克哉(うらかみ・かつや)】
日本認知症予防学会代表理事。鳥取大学医学部を卒業後、同大学院博士課程修了。同大学の脳神経内科などを経て、2001年、同大学医学部保健学科の教授に就任。22年4月からは鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座(寄附講座)教授。日本の認知症予防の第一人者。外来での診察も含め総合的に認知症に取り組み、実践的な啓発活動を行なう。主な著書に『科学的に正しい認知症予防講義』(翔泳社)などがある。

 

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