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「聞こえづらい、匂いがしない」は注意が必要...40代から始める認知症予防

2023年03月27日 公開

浦上克哉(鳥取大学医学部教授、日本認知症予防学会代表理事)

浦上克哉 認知症予防

認知症と聞くと、現役世代にとっては「まだまだ先の話、それより親が心配だ」と思うかもしれない。しかし、日本認知症予防学会で代表理事を務める浦上克哉氏によると、認知症の原因物質の蓄積は40代から始まるという。身近な家族を認知症にしないための方策や、将来の罹患を防ぐためにミドルが今からやるべき予防策について、浦上氏に取材した。

※本稿は、『THE21』2022年8月号特集「40代・50代から必ずやっておくべき『健康習慣』」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「認知症予防」は40代が分かれ目

認知症は、正確には病名ではなく、症状のことを指しています。

具体的には、もの忘れを中心とした記憶障害、演算ができなくなる失計算、抑制の利かなさなどですね。原因となる疾患名とセットで「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」などと呼ばれます。

数は少ないですが、脳ではなく甲状腺の機能低下などによって引き起こされるものなど「治る認知症」もありますので、ご自身、ご家族とも疑わしいときは早めに診察を受けることをお勧めします。

さて、そんな種々ある認知症の中でも、日本で一番多いのが「アルツハイマー型」の認知症です。

厚生労働省の統計によれば、認知症患者の6~7割を占めるといいます。このタイプのものは、「アミロイドβ蛋白」という物質が20~30年かけて、ゆっくりゆっくり溜まっていくことで発症する病気です。

ということは逆算すると、70歳で発症する人は、40~50歳頃から「アミロイドβ蛋白」の蓄積が始まったことになります。つまり万全の予防を期すためには、40代こそ「認知症予防」に着手すべき年代と言うこともできるのです。

そして、認知症を予防するためには、まず認知症の危険性を高める因子を知ることが肝心。数え上げればきりがないですが、ここでは世界的な医学誌『Lancet』で、2020年に発表された研究結果を紹介しましょう。

この研究では、「認知症リスク因子」として、「難聴」「抑うつ」「高血圧」「教育(知的好奇心の低さ)」などの12個が挙げられています。まずはこれらのようなエビデンスのあるリスクを少しでも減らすことが大切です。

 

「難聴」が認知症リスクに繋がる理由

まず、「若年期」に生じるもので最大のリスクとなるのが「教育の不足」です。

多くの日本人は義務教育を受けていますから、この部分について心配しすぎる必要はないですが、知的好奇心を働かせず、あまり頭を使わない生活を長年送っていれば、脳の機能は鈍くなっていくものです。

また、年齢を重ねると、新しいことに挑戦するのが億劫になってきます。40代、50代から過度に保守的になり、一定のパターンの中で仕事や生活をこなそうとしてしまう方が少なからずいますが、年を取るほど意識的に変化を求めることをお勧めします。

続いて45~65歳の「中年期」に最大のリスクとなるのが、「難聴」です。理由としては、難聴になると聞き返すことが多くなり、周囲の人もまた大きな声で話す必要が出てくること。会話が互いに面倒になり、家族や親しい友人ともあまり話さなくなってしまうんです。

それに、色々なコミュニティに積極的に参加していた人でも、他人の話が聞こえづらくなると、「迷惑をかけているのでは」と次第に足が遠のきます。難聴は「社会的孤立」という他のリスクにも直結する問題なのです。

要は、難聴自体が脳に悪影響を与えるのではなく、それによる人との会話の減少が悪影響を与えるということ。少しでも「聞こえづらいな」と感じたら、年齢を問わず、早めに補聴器をつけ始めることをお勧めします。

 

生活習慣の改善が予防にもつながる

中年期のリスク因子としては、難聴以外に「高血圧」「肥満」も挙げられています。これらは66歳以上でのリスク因子である「糖尿病」「運動不足」とも深い関係があります。

要するに、おいしいものばかり食べて、運動をしなければ、生活習慣病になる確率が高まるだけでなく、そこから認知症になるリスクも高まるということです。

とはいえ、これらの病気になっても、きちんと治療し、コントロールすることができていれば、認知症のリスクは十分に下げることができます。

高齢になって、これら3つの病気のどれとも一切縁がないという人はごく少数です。日々意識して対策をしておくことで、それぞれの病気の進行を遅らせることができますし、それが認知症の予防にもつながります。

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