2025年11月25日 公開

「怒り」に振り回されないことは、いまやビジネスパーソンの必須スキル。一時の激情で周囲からの信頼を失ったり、部下に怒る際に加減や言葉選びを誤ってパワハラになってしまってはいけない。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者である安藤氏に、怒りとうまくつきあっていくための秘訣を聞いた。(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2024年12月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
アンガーマネジメント=「怒りを我慢すること」だと思っている方は多いと思います。しかし、それは誤解です。アンガーマネジメントとは、怒りと「適切につきあう」ことです。
アンガーマネジメントの発祥地であるアメリカでは、日本人より感情表現が激しい人が多いため、怒りを鎮めるトレーニングが重要となります。対して日本では、日本人特有とも言える別の問題があります。「怒る必要のあるときに怒れず、怒りを溜め込みやすい」というものです。
怒りの溜め込みは、強いストレスになります。身体にも悪影響が出ますし、仕事のパフォーマンスも下がります。溜め込んだストレスが暴発して突然怒り出す、といったことも起こり得るでしょう。本人にとっては我慢の末の怒りでも、周囲にしてみればまったく不可解で、信用を落とすことにもなりかねません。
そもそも、怒りとは自己防衛であり、生物として自然な反応です。危機に瀕したとき、例えば自分の権利を侵害されたときには、抑えずに主張することが大事です。
他方、怒るほどのことではなければ、怒る必要はありません──と言葉にすれば「当たり前だ」と思われるでしょうが、多くの方が、「怒る必要のあるときに怒れない/怒らなくていいときに怒る」失敗を犯しがちです。アンガーマネジメントは、そこを正していくプロセスとも言えます。

「怒ってよい」「怒らなくてよい」という線引きが曖昧な人は、意外に多くいます。例えばAさんとBさんに同じことをされても、Aさんには怒るのにBさんには怒らない、ということがありますね。また、そのときの機嫌の良し悪しによって、同じ出来事に対して怒ったり怒らなかったりすることもあるでしょう。
このように線引きが動くと、やはり傍目には不可解で「何に怒りだすかわからない人」と見なされます。どこで線を引くかを決め、その線をブレさせないのが望ましい状態です。
この線は、自分の価値観に基づいて自分で決めるものです。ですからどこに引くかは自由ですが、一つ基準を持つとしたら、「ビッグクエスチョン」が有効です。怒りがわいたとき、「ここで怒るのは、自分にとって、周りにとって、長期的に見て健康的な選択肢か?」と自問するのです。
最初は難しいと思います。アンガーマネジメントは、やり方を知ってすぐにできるものではないからです。いざという場面では自問する余裕もなくカッとなったり、逆にただただ我慢したり、ということはいくらでもあります。だからこそ、地道な練習が必要です。失敗しつつも「次はこうしよう」と毎回考えましょう。
ちなみに、カッとなったときは「6秒待つ」という方法がよく知られていますね。これは、6秒あれば理性が働くからです。怒りを含め、感情は「大脳辺縁系」という原始的な脳が司っているのに対し、理性は「大脳新皮質」、とりわけ前頭葉が司っています。後者が働き始めるまでの6秒をやりすごせば、「ビッグクエスチョン」を考える余裕も出てくるでしょう。

自分の怒りの基準を知るための、お勧めの方法もあります。自分が「○○すべき」と思ったとき、そのつど記録につけることです。
「べき」は、自分の怒りポイントです。正しいと思っている信条に相反する言動をされるとイラッときてしまう──そんな「べき」が多い人・強い人ほど、怒りの感情を抱く機会も(表に出すか否かに関わらず)多く、強くなります。
記録を読み返して、自分がどのような「べき」を持っているかを知り、同時に、「べき」が厳し過ぎないか検討しましょう。周囲と比べてどうか、と比較するのも良い方法です。周囲に合わせよ、ということではなく、客観視することが重要なのです。
発展形として、「三重丸」という方法もあります。自分を中心に、三重の円を思い浮かべてみましょう。一番内側の円が「許せるゾーン」、二番目が「まあ許せるゾーン」一番外側が「許せないゾーン」です。
ポイントは二番目のゾーン。「自分の『べき』とは一致しないが、まあいいか」と思える範囲です。ここが狭い人は、怒りに駆られやすくなります。「べき」から少しでも外れると、すぐ「許せないゾーン」に入るからです。「怒りポイント」をむやみに発火させないためにも、「まあ許せる」の拡張を図りましょう。
その際の魔法の言葉は、「せめて」です。「せめてこうならいいな」と、イメージする癖をつけましょう。自分はどこまでなら及第点とすることができるのか、これまた地道に自問を重ねるプロセスです。
さて最初にお話しした通り、日本人は内心に怒りを溜め込む傾向があります。とりわけ40~50代ビジネスパーソンからよく寄せられるのが、「部下を怒れない」「パワハラと言われそう」という悩みです。そこには「注意や指摘は、全部パワハラと捉えられそう」という誤解があります。
例えば、部下に会議資料の作成を頼んでおいたところ、会議直前に出てきたものが不備だらけだった、というケースで考えてみましょう。
ここで、「なんでこんなこともできないんだ!」と、感情的に怒りをぶちまけてしまえば、それはパワハラになり得ます。怒るにしても、正しく怒る方法があります。
大切なのは、「誤植が5カ所あるよ」「ここ、見出しと内容があっていないよ」などの事実に関する指摘をすることです。対して、「君はダメだな」「使えないな」などの人格攻撃はパワハラに該当し得ます。
このラインを守っていれば、必要以上にパワハラを恐れて、怒りを溜め込まなくてもよくなります。
注意する点は、「なんで早く見せなかった」「なんで直前まで着手しなかった」といった原因追及です。
問題解決には、①原因を突き止めて次回から防止する、②今起きている問題の解決を図る、という2つの方向性があります。どちらも大事ですが、この場面でどちらを取るほうが良いかは明白ですね。もうすぐ会議が始まるときに「なんで」などと言っている場合ではありません。ここは最速で修正するにはどうするか、と解決策を考えるのが正解。今に専念することが、無駄な怒りの防止にもつながります。

その際は部下に、どの部分をどう修正してほしいか、といった具体的指示をしなくてはなりません。また、この急場をしのいだあと、改めて原因を振り返り、「次からは1週間前に一度見せてね」「ここは○○と照らしあわせて書いて」と、失敗の予防策を伝えることも重要です。
これらは、広い意味で「怒る」の範疇に入りますが、そこにあるのは、「今どうしてほしいか」「次からどうしてほしいか」を知ってもらうという目的です。
つまるところ、怒りとは、相手への「リクエスト」。リクエストは、わかる言葉で伝えなくては意味がありません。
そこで気をつけたいのが「程度言葉」です。「次はきちんとね」「しっかり仕上げてね」では、相手は何が「きちんと」「しっかり」なのかがわかりません。自分の望む形を、具体的に伝えることを心がけましょう。
また、「決めつけ言葉」も避けましょう。「君は『いつも』チェックが甘い」「こういうとき、『必ず』慌てて失敗するよね」といった類のひと言は、無用に相手を傷つけるので要注意です。
そのほかに(内心も含めて)怒りを覚えやすい場面について、いくつかお話ししておきます。
一つは、期待が高すぎたときです。期待していた部下などがその期待に沿わなかったとき、裏切られた気持ちになることがあるでしょう。しかしそれは、あくまで自分側の期待であり、相手に応える義務はありません。「期待するな」とは言いませんが、「期待通りになるとは限らない」という認識は常に持っておきたいところです。
また、「コンプレックス」も怒りの引き金になりやすいポイントです。例えば、生真面目な自分に劣等感があって、面白い人間になりたいと思っている人が、「○○さんは本当に真面目ですね」と褒められたら逆に不機嫌になる、など。
この手の「地雷」は、相手からはもちろん、自分でも見えていないことがあります。特定の言葉に「なぜか」腹が立つ、というときは、そこに何らかのコンプレックスが隠れていないか探ってみましょう。すぐには克服できないにせよ、自分を見つめ直すことはそれだけで意味があります。
最後に、怒りはポジティブな力の源泉にもなる、ということを知っていただきたいと思います。「自分がふがいない」と腹が立てば向上心が芽生えますし、社会の問題に対して怒れば、それを変えようとする大きなパワーが生まれます。
その意味で、怒りは「自分がどう生きたいか」の指針になります。その場その場の小さな怒りにとらわれず、自分が「なぜ」「どんなときに」怒るのか、全体を見渡せたとき、それがわかってくるでしょう。
劣等感を持つ弱い自分、こうありたいと願う自分、ネガティブもポジティブもすべて含めて理解すること──それがアンガーマネジメントの、究極の目的と言えるでしょう。
【安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)】
(一社)日本アンガーマネジメント協会ファウンダー。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行なっている。著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日文庫)などがある。著書は世界各国で翻訳され累計80万部を超える。
日本アンガーマネジメント協会:https://www.angermanagement.co.jp/
更新:04月04日 00:05