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「結論は最初」が逆効果になることも? 編集者が使う“読まれる文章術”

2022年10月05日 公開
2023年02月08日 更新

竹村俊助(株式会社WORDS代表取締役/編集者)

 

一番伝えたいこと以外は思い切って削る

わかりやすい文章のもう1つの要点は「結論が最初」ということです。相手が忙しいビジネスパーソンならなおさら、いつまでも結論が見えない文章は途中で離脱されてしまいます。

例えば転職について書くなら「転職で失敗する理由は○○です」などと結論から書き出しましょう。結論を述べたあとで、それを補強する「理由」「事例」「詳細」といった要素を加えていけばいいのです。

結論という屋根を、理由などの「柱」が支えているイメージです。柱はどれか1つより、複数あるほうが頑丈な家になりますよね。

ここで注意したいのが、結論は「1つ」に絞ること。転職で失敗する理由について書き始めたのに、途中で「そもそも転職はしないほうが良く...」などと別の結論を織り込んでしまうと、結局何が言いたい文章なのか、よくわからなくなってしまいます。

自分が一番伝えたいこと以外はあえて書かず、もし書いてしまったら潔く削る。そんな勇気が必要です。

もしも伝えたいメッセージが分散していたら「結局、何が一番言いたいんだっけ?」と整理し直し、あらためて「一番伝えたいこと」を冒頭に移動させる。それだけで、一気に伝わる文章になること間違いありません。

 

相手に「行動」させる文章は、あえて結論から書かない

竹村俊助

これは上級編ですが、伝えるだけでなく、相手の心を動かして何らかのアクションを起こさせるための文章も存在します。そういった文章に必要な工夫もお伝えしましょう。

先ほど「結論は先に」とお伝えしましたが、それをあえて避けるべき場合もあります。

例えば、採用への応募者を増やすための文章なら、結論は「当社に応募して」です。しかし、その結論がバシバシ伝わる文章を書いても、逆に引かれてしまい、最後まで読んではもらえないでしょう。

それよりも、先進的な社風や事業の概況などを語ったうえで、最後に「ぜひ当社にご応募を」と入れるだけのほうが、読み手の心に響きます。

こういったときのお手本は「セールストーク」です。優秀な営業パーソンは、最初から「買って」とは言いません。

「お掃除にお困りではないですか?」などと相手の興味のありそうな話題から入り、巧みに「掃除機を売る」などの目的を達成します。人の行動を促す、という目的が同じなら、手段が「文章」になっても考え方は共通なのです。

 

印象的な文章には「サビ」の部分がある

読み手の心を動かすには、結論とは別に「サビ」を作るのも効果的。サビといえば歌の盛り上がり部分ですが、文章もそういった「グッとくる」部分を作ることで、はるかに印象を強めることができるのです。

このサビの部分の内容も、人との「会話」で聞く生の声から見つかることが多くあります。

例えば、以前行なったある経営者インタビューの際に、「苦難を乗り越えるには、徹底的に考えるしかない。考えてやってみてダメで。何度やってもダメで、またダメで、またダメ。それでも、とにかく悩み抜くしかないんです」という言葉が出てきました。

きれいな文章ではありませんが、なんだか心を揺さぶるパワーがありますよね。

当然、全編これでは読みにくすぎます。ですが、こうした言葉を「サビ」としてピンポイントに使えば、文章にメリハリが生まれ、読者を引き込む文章にすることもできるのです。

また、わかりやすい言葉で読み手の心を動かしたいなら、「身体的な表現を使う」という方法もあります。

例えば「悩む」の代わりに「頭を抱える」、「緊張する」の代わりに「手が震える」というように、身体の部位を用いて表現するんです。こういった表現があると、読み手も共感や感情移入がしやすくなります。

他にも、僕が取材した経営者の言葉で「(自分としては)体中に何本も機械や管を突っ込まれて生かされても」という表現がありました。痛々しい表現ですが、読み手の心を揺さぶる力はある。このときも、この表現は「サビ」の一部としてあえて整えずに完成させました。

もちろん、こういう書き方が適している場合と、そうでない場合があります。やはり「書く目的」によるでしょう。報告書では簡潔に書くことのほうが重要です。

片や、ブログやSNS、ビジネスで言えばプレゼンの原稿などの文章なら、今回ご紹介したような「話し言葉」由来の表現や「サビ」となるエピソードを効果的に用いたほうが、相手の心を動かせるでしょう。

文章はあくまで「手段」。書く「目的」を実現するための戦術を覚えれば、文章への苦手意識を手放せるだけでなく、仕事における大きな武器としての文章力を手に入れることも、できるのではないかと思います。

 

【竹村俊助(たけむら・しゅんすけ)】(株)WORDS 代表取締役/編集者。1980年、岐阜県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本実業出版社にて書店営業とPRを経験した後、中経出版で編集者に。その後、星海社、ダイヤモンド社などを経て2019年に独立し現職。これまでに『メモの魔力』など数々の話題書に携わり、担当書の累計部数は100万部超。著書に『書くのがしんどい』(PHP研究所)がある。

(『THE21』2022年11月号特集「生産性2倍の『文章術』」より)

 

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