THE21 » キャリア » プロが提言! ソニー復活への処方箋

プロが提言! ソニー復活への処方箋

2012年04月16日 公開
2024年12月16日 更新

『THE21』編集部

『THE21』2012年5月号「特別企画」より》

かつて「世界のソニー」といわれた会社が不調に陥っている。
「ウォークマン」「プレイステーション」「バイオ」など、革新的な製品を世に送り出してきた会社が、いったいなぜ低迷しているのか?
ソニーの不調に日本全体の不調を重ねて、歯がゆく思っている人も多いことだろう。
そこで『THE21』5月号では、「なんとかソニーに復活してもらいたい」という思いから、各分野で活躍中のプロの方々に「ソニー復活の秘策」をうかがうことにした。
ソニーだけではない、多くの日本企業の停滞を打開する処方箋とは?

 <取材構成:前田はるみ>

「ソニーらしさとは何か?」を再定義すべき
  西田宗千佳(ITジャーナリスト)

アップルとソニーはいったい何が違うのか

「なぜソニーはアップルになれなかったのか?」とよくいわれます。しかしソニーにかぎらず、「アップルになれる会社などない」というのが私の考えです。アップルという会社はあまりにも特殊なために、どの会社も真似をしようと思ってもできるものではありません。

 たとえば製品のラインナップをみると、ソニーはパソコンの「バイオ」だけでも約30種類を出しています。AV機器やテレビなど全製品を集めれば、膨大な数になるでしょう。対してアップルのパソコンは全部で5種類しかありません。カタログに掲載されている製品をぜんぶ集めても、100種類くらいではないでしょうか。

 ラインナップを増やせば、消費者の多様なニーズに応えることができる。色のバリエーションも増やして網を広げ、できるだけ多様な人に買ってもらう――。こうした「多品種小ロット」の製品展開は、1990年代以降、物流システムのIT化が進んだことで可能になりました。ソニーだけではなく、日本の多くのメーカーが採用してきたビジネスモデルです。

 しかし、ラインナップを増やせば、当然のことながら1つの製品にかけられる開発費は少なくなります。完成度を高めたくても、開発費に限界があれば技術者は諦めざるを得ません。しかし、やがてそれは製品のクオリティーの低下として表われてくる。

 その一方で、製品ラインナップが少なければ、1つの製品に大きな開発費を投じることができます。そうしてアップルは種類を絞り込み、細部にまでこだわった完成度の高い製品をつくることができたのです。

 付け加えるなら、製品ラインナップが少ないということは、販売管理がしやすいということでもあります。製品の数が多ければそれに応じて需要予測や販売管理の負担も増えますが、ラインナップが少なければ販売管理はより単純化され、大量に販売しやすくなります。しかもアップルは、その少ないラインナップの製品を「外さない」ように、じゅうぶんな開発期間と広告宣伝戦略を立てて、一気に売り出す手法をとっています。

 これはアップルが製品へのこだわりを具現化するために、すべてを最適化した結果辿り着いた姿であり、これと同じことをソニーが表面的にやろうとしても、無理なのです。

ソニーらしさは失われていない

 では、アップルにはなれないからといって、ソニーはもう駄目なのでしょうか。私は決してそうではないと思います。ソニーが凋落したというのは一面的な見方であって、圧倒的に強い分野はまだまだあります。

 いまのソニーを支えているのはじつはデバイス技術です。たとえば、「iPhone4S」に使われている画像センサーはソニー製です。このセンサーのおかげでiPhone4Sのカメラ機能は、デジカメも超える高性能になりました。その意味では、ソニーはアップルの好調の一翼を担っているともいえます。ほかにもバッテリーや映画撮影用の高画質カメラ、非接触IC技術など、ソニーが圧倒的な強みをもつ分野は多数あります。

 その一方で、多くの人が抱くソニーのイメージは、1980年代にヒットしたトリニトロンテレビやウォークマンなどの最終製品によって形づくられました。しかし、当時のソニーはそうしたユニークな最終製品を生み出すことはできたものの、いまのようにすぐれた基礎技術を確立していたわけではありません。ソニーが基礎技術で抜きん出てきたのは、1990~2000年代のことです。

 それを考えると、かつての「ソニーらしさ」にこだわるのではなく、現状に合った「新しいソニーらしさ」を再定義することも考えられるはずです。たとえば、「基礎技術をベースにした付加価値のある製品をいまのソニーらしさとするなら、それは決して失われてはいません。

 とはいえ、ソニーが経営不振に陥っているのは事実ですから、もちろん現状のままでいいわけではない。ではどうしたらいいのか。ソニーが生き残る道は2つあると私は思います。

 1つは、自分たちの強みが生かされていない分野を捨てて、基礎技術の分野に特化すること。この選択をする場合、ジャンルによっては消費者向けの製品から撤退することもあるでしょう。しかし、この道を突き進むことは、ソニーという会社が単なるパーツのサプライヤーになってしまう恐れがあります。

 それが嫌なのであれば、消費者がほしいと思う魅力的な最終製品を生み出す道しかありません。おそらくソニーはこちらを選択するのだと思いますが、この道が困難であることは、ここまで歩んできたソニー自身が、いちばんよくわかっていることでしょう。

働く人が全力を出せる環境整備がポイント

 では、消費者にとって魅力的な製品を生み出すにはどうすればいいのでしょうか。そのヒントは、「普通のケータイ」と、「スマートフォン」の違いにあるように思います。

 スマートフォンがヒットしたのは、普通のケータイに比べて使い勝手が格段に向上したからです。できること自体はケータイと大きくは変わりませんが、画面が大きくみやすい、操作がラクといった理由で多くの人に支持されました。つまり、「快適に使えること」=ユーザビリティーの向上が、ヒットの要因になったということです。

 このユーザビリティーの良し悪しを決めるのは、以前はハードウエアの問題でした。しかし、ハードウエアの性能にほとんど差がなくなった現在、快適さを決定づけるカギは、ソフトウエアが握るようになっています。そこにいち早く気づき、資源を投下してきたのがアップルだったというわけです。

 ですから、ソニーがこれからユーザーに支持される魅力的な製品を生み出していくためには、ソフトウエアの開発力を強化していくことに尽きます。そのためには、優れた技術者を世界中から集めるのが手っ取り早いのでしょうが、超一流の技術者は、アップルやグーグルなど給料も労働環境も超一流の企業に集まってしまう現実があります。

 したがって、ソニーがいまの時点でまずやるべきなのは、いまいる技術者が全力を出せる環境を整えることではないでしょうか。意思決定に時間がかかるようでは、世界のライバルに太刀打ちできません。少数精鋭のプロジェクトチームを主体にして指揮系統をフラットにし、トライ&エラーのサイクルを早める。そして会社を、働く人がより自分の仕事に集中して取り組める場所にすること。ソニーだけでなく、日本の多くの会社が復活するカギもここにあるのではないかと思います。


[西田流]ソニー復活への処方箋(まとめ)

1.基礎技術の分野に特化する

「強み」を発揮できる基礎技術と、それを用いた分野に経営資源を集中させ、「消費者向けの商品を提供する会社」から、「基礎技術をベースに付加価値の高い製品を作り出す会社」へと、本格的に転換を図る。

2.ユーザビリティーの向上に注力する

できることはパソコンと大差がないのに、なぜiPadはヒットしたかといえば、それは抜群のユーザビリティーがあるから。「機能」ではなく「快適性」が大きな付加価値をもつことを認識し、そこに注力するべき。

3.働く人が集中できる環境づくり

ユーザビリティーの鍵を握るソフトウェアの質を上げるには、エンジニアが存分に仕事に集中できる環境が欠かせない。待遇面の改善が難しくても、意思決定の仕組みなどですぐに取り組めることはあるはず。

 

西田宗千佳

(にしだ・むねちか)

ITジャーナリスト

 1971年、福井県生まれ。フリーのジャーナリストとして、パソコンやデジタル・AV家電、ネットワーク機器などをテーマに幅広く取材活動を行なっている。著書に、『形なきモノを売る時代 タブレットスマートフォンが変える勝ち組、負け組」(工ンタープレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)などがある。
 

THE21

 

BN

THE21 購入

2025年3月号

THE21 2025年3月号

発売日:2025年02月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

ソニーが元気になれば、日本も元気になる!

『THE21』編集部

キャラクタービジネスは「流れ」と「乗り」が肝だ!/バンダイ

上野和典(バンダイ代表取締役社長)