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キャラクタービジネスは「流れ」と「乗り」が肝だ!/バンダイ

2012年03月01日 公開
2021年08月24日 更新

上野和典(バンダイ代表取締役社長)

ガンダムをはじめとした人気キャラを有する玩具メーカー「バンダイ」――キャラクタービジネスは、当たるか当たらないかが読めない、いわゆる水物である。どのように時代の流れを捉えているのだろうか。バンダイ代表取締役社長・上野和典氏にキャラクタービジネスの極意を伺った。(取材:山田清機)

※本稿は『THE21』2012年3月号より一部抜粋・編集したものです。

 

データでは時代の空気は読みとれない

――バンダイは、いまや玩具メーカーというよりもキャラクタービジネスの専門メーカーと呼ぶべき存在ですが、キャラクタービジネスを成功させるには、何が流行するのか、時代の空気を読む必要があると思います。時代の空気は、どうすれば捕まえることができるのでしょうか。

【上野】時代性というものは、たしかにあるといえばあるのでしょうが、なかなか言葉で表現できるものではありません。会議を重ねても捕まえられるものではないし、インターネットや新聞を眺めているだけでもわからないと思います。

やはり、話題性のある建物や施設、イベントなどに直接、足を運んで肌で感じてくるものではないかと思います。走りながら考えるイメージです。

――個々の社員が肌で感じてきたものを共有するのは、難しいことですね。

【上野】たしかに難しいですね。意思決定をする際、データやアンケートといった定量的な情報ももちろん参考にするのですが、もっとも重視するのは、現場をみてきた人間の「よかった」とか「すごかった」といった定性的な、ライブな感覚ですね。

――キャラクタービジネスは、当たるか当たらないかが読めない、いわゆる水物です。社長が「このキャラクターはいける」と判断する際の基準はどこにありますか。

【上野】大切にしているのは、共感できるかどうかですね。担当者自身が感動していることが前提になりますが、ビジネスとして成功するためには、その感動が多くの人の共感を呼ぶものでなければなりません。

あまりにもマニアックだったり、自己満足だったりしてはビジネスとして成立しません。自己満足を超えてお客様満足の領域にまで入ってきているかどうか。そこが重要な判断ポイントになります。

――何に共感するかは、世代によって違ってきませんか。

【上野】じつは、私自身はなるべくYES、NOの判断をしないようにしているのです。私一人が受けた印象を重んじるのではなく、ほかの社員の共感を呼んでいるかどうかをみるようにしています。

――多くの社員の共感を得られるものなら、客の共感も得られるだろうという仮説ですか。

【上野】その通りです。

――その場合、社員の感覚が世間からズレてしまうと危険ですね。

【上野】私は社内の「流れ」とか「乗り」を重視しています。それがいいときには、大当たりが止まらないという感じです。外れがあるとネガティブな意見も出てきますが、社長が一喜一憂してネガティブな意見に左右され、何かを拙速に変えてしまうと、せっかくのいい流れが止まってしまう。

つねに物事をポジティブに考えて、いい流れをつくっていく。それが、バンダイの社長の仕事だと思っています。

 

新商品は丁寧に説得、定番商品は奇抜に変える

――キャラクターは当たるか外れるか、予測ができません。そうした商品を専門に扱う企業は、どうやって来期の事業計画の数字をつくるのでしょうか。

【上野】たしかにキャラクターは水物ですが、当社で扱うキャラクターの半分ぐらいは数字が読めるのです。たとえば、シリーズ物の場合、毎年改訂版を出すわけですが、来期いきなりゼロになるということはない。

悪くても8掛けぐらいに収まります。こうした定番商品はあまり大きくブレないので、いくら水物とはいっても、ある程度数字は読めるわけです。

――しかし、20%の下方修正になったら大変です。

【上野】そうですね。半分は新しいキャラクターで勝負しますから、これが全滅して、しかも定番商品が8割しか売れなかったらたしかに厳しい。そうならないために、新しいキャラクターを大目に、ざっくりとしたイメージとして3倍ぐらい投入しています。

――3倍とは?

【上野】経営者としては、万が一下ブレしても計画の90%ぐらいには収まるようにしたいわけです。そのためには、新キャラクターの当たりがゼロでは困る。

当たりを出すには、やはり数を打つ必要もあるわけで、ざっくりいって、3つのうちひとつ当たればOKぐらいの規模観で毎年新キャラクターを送り出しているのです。さらにいえば、ひとつのキャラクターに関連する商品群を複雑に構成しているため、どれかが苦戦してもほかが当たる可能性がある。

その結果、バンダイの事業ポートフォリオは、大きく下ブレすることはないけれど、すべての新キャラクターが当たったら大きく上ブレするというかたちになっているのです。

――ガンダムのように30年も前からある定番キャラクターに依存していると、いわゆるジリ貧状態に陥ってしまう危険はないのでしょうか。

【上野】IR(投資家向け広報活動)をやると、よくそういうご指摘を受けるのですが、必ずしもそうはならないと思います。日本が高度成長期にあったときは、古いものはどんどん捨てて、新しいものをやるべきだという意見が社内で支配的でした。

しかし、低成長期に入って新しいものがあまり生まれない時代になると、そういった考え方が変わってきました。古いものを棄てるのではなく、よいものは維持・循環していこうという考え方が支配的になってきたのです。

――キャラクタービジネスもエコロジーの時代に入ったということでしょうか。

【上野】そういう意味で、キャラクタービジネスも世の中の流れと一体なのだと思います。

――維持・循環とは具体的にどういうことでしょうか。

【上野】バンダイの場合、新しいキャラクターは1年間かけて、丁寧にお客様に説明をしていきます。このキャラクターはどんな世界観をもっていて、どこがすごいのかと。反対に昔から続いている定番商品は、相当に奇抜なリニューアルをします。無理やりにでも、毎年どこかを変えていきます。

普通は新しいものほど、当てよう当てようとして派手なことをやるのですが、うちはいたってオーソドックスに説明から入っていく。一方、これまでウケていたものは、普通なら、もっとウケようとするわけですが、わざわざ変えてしまう。バンダイは、あえて普通と正反対のことをやっています。

――なぜでしょうか。

【上野】よくキャラクターは年を取らないといいますが、そうではないからです。キャラクター自身もファンの方も、毎年1歳ずつ年を取っていく。

ですから、ガンダムのように長い歴史をもつキャラクターでも、新しいファンを取り込む努力をする一方で、昔からのファンを繋ぎ止める努力をしなければならないのです。維持・循環とはそういう意味であって、あえて普通と逆のことをやっているのはそのためです。

――新しいファンを取り込むことと、昔からのファンを逃さないことは両立するのですか。

【上野】ここは、きめ細かく対応しなくてはなりません。たとえばガンダムでいうと、ファンは大きく3つの層に分かれていると捉えています。ファーストガンダム世代、ガンダムSEED世代、ガンダム00(ダブルオー)世代以降の3層です。

ファーストガンダム以降の世代は、ファーストガンダムをリスペクトしつつ、独自のガンダム像をもっている。各々の層に合った、「あなたのガンダムはこうですよね」という仕掛けを、分けて提案していかないと受け入れてもらえません。

オンタイムでは「機動戦士ガンダムAGE」を放送していますが、こちらのターゲットはガンダムを知らなかった世代です。ファーストガンダムのファンは、30代後半から40代ですが、ガンダムAGEのターゲットはそのお子さんに当たる世代ですから、やはり異なる提案をしていく必要がある。

細やかな提案をすることで、昔からのファンにも新しいファンにも喜んでいただくことができると考えています。

 

年代別にマーケティングのアプローチを変える
「ガンダム」シリーズ

1979年に放送を開始した「機動戦士ガンダム」 (画像左端) は、ロボットを「モビルスーツ」という「兵器」として扱うリアルな戦争描写や「スペースコロニー」等の緻密な科学考証、複雑に織り成す深い人間ドラマで、それまでのロボットアニメに多かった単純な勧善懲悪では語れない「リアルロボットアニメ」というジャンルを確立し一大ブームを巻き起こした。

2001年のガンダム専門コミック誌『ガンダムエース』の創刊が更なる起爆剤となりブームが再燃、2002年から放送された『機動戦士ガンダムSEED』 (画像中左) は新たな年齢層や女性フアンを取り込み大ヒットとなった。

現在は、『機動戦士ガンダムユニコーン』をイベント上映、配信、ビデオグラム発売で同時に展開中である。その手法は多大な相乗効果を生み、一大ブームとなっている。また、2011年秋よりTVシリーズ『機動戦士ガンダムAGE』 (画像右端) を放映中で、大人から子供まで楽しめる2世代キャラクターとして展開し始めている。

 

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