2021年10月07日 公開
――そして、4つ目が保険事業です。なぜ参入したのでしょうか?
【原】これは、かねてから温めていた事業です。
当社は「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を。」というビジョンを掲げています。これを実現するためには、患者さんが様々な選択肢から納得できるものを選べるようにしなければなりません。当社は、その選択肢を増やすための事業を展開しているわけですが、その選択肢が、患者さんにとって経済的に選択できるものであることも必要です。
そのためには、公的な健康保険も重要ですが、それだけではなく、民間の保険も提供することで、患者さんをサポートしていけると考えています。
――方法としては、保険会社と協力して保険商品を開発するということも考えられるのではないかと思いますが、MICIN少額短期保険を設立するという形にした理由は?
【原】患者さんとの直接の接点を数多く持つのが非常に重要だと考えているからです。
――提供しているのは、乳がん・子宮頸がん・子宮体がんの再発保障保険です。これらの疾病を選んだのは、なぜでしょうか?
【原】患者さんにとって、特にペインが深いからです。比較的若い年齢で発症することが多くあり、その後、長い期間、再発のリスクを心配し続けなければなりません。再発に伴う経済的なリスクへの不安も、長く続きます。
――今後は他の疾病にも広げていく?
【原】そうしたいと思っています。また、今は限られたステージのがんの患者さんだけが対象になっているので、対象とするステージも広げていきたいと思います。
――保険の商品設計に、curonなど、御社の事業で得たデータは使っていないということですね。
【原】そうです。まだ商品設計に使えるほどデータセットが揃っていません。今後、さらに当社のサービスが普及していけば、そのデータの活用も見えてくると思います。
――では、現状では、どのようなデータを使って商品設計をしているのですか?
【原】従来の保険商品と違って、医療機関に近いところのデータを使わせていただいています。
――医療機関との信頼関係があるから、そうしたデータが使える?
【原】そういう面もあると思います。加えて、データセットに対する理解というものが非常に大きなポイントです。誰でも入手できるデータでも、それをどのような切り口で、どう分析するかが重要なんです。
――データの活用は、どの企業も注目しているところです。データの活用において、御社の強みは?
【原】1つは、curonやcuronお薬サポートなどで患者さんとの直接の接点があり、データを取得する基盤を持っていること。もう1つは、臨床データを読み解く知見と、データを分析・解析する知見の組み合わせで、新たな価値を作れることです。繰り返しになりますが、公開データでも、使い方によって、新たな価値を生み出すことができます。
――原CEOご自身も医師で、臨床の経験をお持ちですが、臨床がわかっているからこそ、データから新たな価値を作り出せる?
【原】医療のオペレーションを深く理解していることとデータ解析の技術との組み合わせですね。ここが我々のユニークなところであり、強みだと思います。
――今後、さらに事業領域を広げることは考えていますか?
【原】今後も、今展開している事業が主軸になると思います。デジタルセラピュ―ティクス事業にはまだ実証研究中のものも多いですし。
――今展開している事業は、すべて創業当初から考えていたのですか?
【原】必ずしも綿密に考えていたわけではないのですが、前職のマッキンゼーで製薬会社や医療機関、保険会社などへのコンサルティングをしていた中で、医療とデータというものが1つの重要な切り口になるだろうと考えていました。
――日本はデータ活用が遅れていると言われますが、そう感じていましたか?
【原】やはり医療の分野ではすごく遅れていると感じました。
理由はいくつかあるのですが、まず、そもそもデータ化がされていないということがあります。医療機関には電子カルテなどがあるのですが、日々の健康状態に関する情報は取得できていません。
また、データ化されていても、それが使えるようになっていない。例えば、電子カルテのフォーマットが統一されていなかったり、そこに書き込む言葉の表現が医師によって違ったり、検査の基準値が病院によって違ったりしています。curonでは、将来的なデータ活用を見据えて、この問題を解消するようにしています。
さらに、整ったデータがあったとしても、それをどう事業化するかが見えていません。事業化という出口が見えないために、データが活用されていない、という状況です。
――データを活用して収益を上げるビジネスモデルが考えられていない、ということですか?
【原】診療報酬などの制度の問題も関わってきますが、予測可能性が低いということだと捉えています。米国では、安全なものであればまずは世の中に出していこうという考え方ですが、日本では、例えばデジタルセラピューティクス事業のようなサービスは、医療機器と同じような厳密な検証が求められますから。
――そうした困難さと可能性の両方を知ったうえで、起業に踏み切ったのですね。
【原】問題意識自体は医学部生の頃から脈々とあって、すごくやりがいのあることだと考えていましたから、成功する確信があったわけではないものの、起業しました。必要性が高い事業なので、時間がどれだけかかるかはわからないにせよ、うまくいくだろうという楽観はありました。
日々、難しさを感じていますし、ハードなチャレンジもありますが、仲間にも恵まれていますし、オンライン診療に対する理解や制度など、環境の面でもいいタイミングで事業が展開できていると感じています。
更新:11月22日 00:05