2021年09月09日 公開
2023年02月21日 更新
日本で生きていくなら、「自然災害」は誰もが持っておくべき課題認識です。火山学者の鎌田浩毅さんが書いた『日本の地下で何が起きているのか』は、この国の地盤が変動し、地震や火山噴火が多発する周期に入ったことを解説しています。
日本人は改善が得意で、一度ひどい目に遭うと、二度と同じ被害が起きないように対策します。でも、自らの記憶にない数百年前の災害を教訓にしたり、福島の原発事故のように「あるはずがない」と皆が思い込もうとしていたことに対する備えは、得意ではありません。
だからこそ、本書で語られるような地殻変動や自然災害の仕組みを理解し、「想定外を想定する」という視点を持つことが重要です。
長期的な視点で自分たちの社会を捉えるという意味では、『トレイルズ』も参考になります。これは著者が実際に世界各地を巡りながら、歩くことの精神性について書き記した本です。
人類は産業革命以降、都市に人口を集中し、生産性とGDPを高める成長モデルがすべてだと信じてきました。しかしそれは、すでに限界に来ています。ならば都市に集中するのではなく、地方で豊かな自然や魅力ある固有の文化と共に暮らしながら、同時にデジタルの力を活用して、雇用や仕事を生み出すことはできないか。
この課題認識に対し、歩くことに象徴される「身体性」を掛け算することで、見えてくるものがあると教えてくれるのがこの本です。最近は地方に住む若い人たちが、地元で栽培した小麦を使ってパン屋を開いたり、醤油や味噌を昔ながらの自然製法で作るといった事例が増えています。
自分の足で歩きながら自然を楽しみ、地元ならではの魅力や文化を発見できれば、これまで良しとされた都会モデルとは違った新たな地方モデルを生み出すことができるかもしれません。
皆さんが読書の幅を広げたいなら、自分の好きな著者が勧めている本や、愛読書で引用されている本を読んでいくといいでしょう。加えて、英語の情報を拾うこともお勧めします。私は日本の新聞の書評欄も読みますが、『エコノミスト』や『フィナンシャル・タイムズ』のブックガイドも目を通します。
海外で話題になっている本があっても、日本語に翻訳されるまでにはタイムラグがあります。実際に読むのは日本語訳だとしても、英語で一次情報を取得できれば、日本で出版されたときもすぐに入手できます。普段からアンテナを広く張り巡らせれば、読書体験はより豊かなものになるはずです。
1.『アルケミスト』パウロ・コエーリョ著、山川紘矢・山川亜希子訳/角川文庫
将来のことは予測できないが、つらい経験もあとから振り返ればその意味がわかる。点と点がつながる人生の旅。
2.『深層意識への道』河合隼雄著/岩波書店
人生は予想外のことが起きるもの。目の前に流れにまず飛び乗って、いいか悪いかはあとから振り返ればいい。
3,『アムンセンとスコット(本多勝一集〈28〉)』本多勝一著/朝日新聞出版
現代の先の読めない状況は、20世紀初頭の極地探検に似ている。対照的な運命を辿った二人の違いは、楽観と悲観にあった。
4.『挨拶はむづかしい』丸谷才一著/朝日文庫
文壇の大御所が語る冠婚葬祭のスピーチの心得。ユーモアに富む語り口の裏側には、深い教養が感じられる。
5.『意味がなければスイングはない』村上春樹著/文春文庫
「スイングがなければ意味はない」をもじったタイトルのエッセイ。音楽をこよなく愛する大人気作家による音楽評論集。
1.『リーチ先生』原田マハ著/集英社文庫
バーナード・リーチと、彼に師事した少年の物語。先の見えない中で、信念を持って歩み続ける姿に心が揺さぶられる。
2.『魔法の世紀』落合陽一著/PLANETS
リアルとバーチャルの境界線が曖昧になった世界の中で、メディアアーティストが描くデジタルとアートの交点とは?
3.『シン・ニホン』安宅和人著/NewsPicksパブリッシング
デジタルやデータと日本が抱える様々な課題を掛け合わせ、日本の未来を膨大なデータとロジックで論じた大作。
4.『日本の地下で何が起きているのか』鎌田浩毅著/岩波科学ライブラリー
地殻変動や激甚化する自然災害発生の仕組みとは?「想定外を想定する」という視点の重要性がよくわかる。
5.『トレイルズ』ロバート・ムーア著、影山徹画、岩崎晋也訳/エイアンドエフ
足下に伸びる「トレイル=道」はどのようにできたのか?歩くという身体性を通じて、人類や都市のあり方を考える。
更新:11月23日 00:05