2021年06月09日 公開
2023年02月21日 更新
アスリートが実力を発揮するためには、フィジカルだけでなくメンタルも大切なことはよく知られている。一流のアスリートたちは、勝負の瞬間に向けてどのように集中力をコントロールしているのだろうか。
自身も元五輪メダリストで、現在はトップアスリートにメンタルトレーニングの指導を行なっている田中ウルヴェ京氏にうかがった。(取材・構成:前田はるみ)
良い結果を出すには「集中力が大事」と言われますが、ここ一番の勝負の瞬間だけ、「さぁ、集中するぞ!」と声に出して気合いを入れている人は、もしかすると、間違った集中をしているかもしれません。
そもそも「集中力とは何か」ですが、スポーツ心理学に基づき簡単に説明すると、「注意集中」と「注意配分」の二つに分けられます。注意を向けるべき場所に集中するのが「注意集中」、その注意を適切に配分するのが「注意配分」です。
例として、サッカーのPKで必要な集中について考えてみましょう。
ボールを蹴る選手に、「あなたがゴールを決めるために、集中すべき場所はどこですか?」と聞くと、「ボールの方向」と答える人もいれば、「自分の左足の軸」「自分のリズム」「体幹」「リラックスすること」など、答えは様々です。
ただし、どれか一つに100%集中するわけではありません。どこに注意を配分しているのかが、次に大事なことです。
アスリートであればこういった注意配分は無意識に行なっているものですが、改めて自己分析をするなら、例えば、ボールの方向などの外的なことに対しては6割、自分の体は3割……、のように配分しているわけです。
こうやって「そもそもどこに注意を向けると良いパフォーマンスにつながるのか」を考えていくと、「どこに注意を向けてはいけないか」もわかってきます。
集中力を妨げる最たるものが、雑念です。「失敗したらどうしよう」と未来を心配したり、「なんでもっと練習しなかったのだろう」と過去を悔やんだり、「周りにどう思われるだろうか」と人の目を気にしたりする自分に気づくことが大事です。
自分がどんなに頑張っても変えられない過去や、他人の意識に集中してしまっている自分に気づけば、「そこに集中しないためには何ができるかな」と方略を立てられます。こういった雑念の整理は不可欠です。
以上が、アスリートに必要な「集中」です。競技や選手によって必要な集中は異なるので、競技特性や選手に合った注意配分が大切です。
こうしてみると、「さぁ、集中するぞ!」と気合いを入れることの何が間違っているか、おわかりですね。注意を向けるべきは、気合いの言葉ではなく、自分のパフォーマンスなのです。
更新:11月22日 00:05