2021年03月30日 公開
2022年10月11日 更新
つまり、ヨーロッパ諸国と比べた場合、日本の「正社員」と呼ばれる労働者の雇用契約は、日本の企業という組織の一員(メンバー)としての地位を与える契約と考えることができます。
日本以外の社会のように具体的なジョブを特定して雇用契約を締結するのであれば、企業のなかでそのジョブに必要な人員のみを採用することになりますし、そのジョブに必要な人員が減少すればその契約を解除する必要が出てきます。
なぜなら、契約でジョブが特定されている以上、そのジョブ以外の労働をさせることはできないからです。
ところが、日本では、契約でジョブが決まっていませんから、あるジョブに必要な人員が減少しても、人員に余裕がある別のジョブから異動させることで、メンバーとしての地位を維持することができます。
事例で説明します。たとえば、A社において、不採算を理由としてB部門を閉鎖することになったとします。他方で、A社においては、別のC部門で人員が足りていません。
この場合、閉鎖することになったB部門に所属していた「正社員」のXらをC部門に異動させることで、「正社員」XらのA社のメンバーとしての地位を維持することができます。
つまり、日本においては、ジョブがなくなったからという理由による整理解雇は、他に回す余地のあるジョブがあれば認められにくいのです。
ここでドイツの解雇規制をみてみたいと思います。解雇が有効となる「正当な理由」のうち、個人的事情(長期の病気など)や行動(勤務成績不良など)については、企業側がきちんと立証しなければなりませんが、経営上の理由によるものについては、人選基準などさまざまな要件が課せられているとはいえ、基本的には「正当な理由」があると認められやすいです。
たとえば、経営上の必要性については、赤字が続いていて倒産の危機にあるということまで必要なく、企業戦略の変更により部署・仕事がなくなるということで足ります。
フランスも基本的に同様です。
また、イギリスでは、整理解雇は業務遂行不良や非違行為を理由とする解雇とは別立てになっています。整理解雇の有効性は、日本ほど厳しい基準では判断されません。
つまり、ヨーロッパ諸国では、個別解雇については日本と比較して殊更に容易というわけではないけれども、経営上の理由による整理解雇は実施しやすいといえます。
これは、企業側の一方的な経営上の理由による解雇(整理解雇)は、労働者側に非があるわけではないにもかかわらず、労働者(特に長期雇用を前提とする「正社員」)は大きな経済的打撃を被るのだから、本当にやむを得ない場合に限って認められるべきだと考える日本人の感覚からはとても意外に感じられるところと思います。
しかし、前述したとおり、雇用契約がジョブに基づいていること(したがって、雇用契約締結時のジョブがなくなったのであれば、契約を終わらせるしかないと考えられること)からすれば、理解しやすいと思います。
更新:11月24日 00:05