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日本の「解雇は難しい」は本当なのか? 労働法の専門家が語る“海外との比較”

2021年03月30日 公開
2022年10月11日 更新

星野悠樹(杜若経営法律事務所)

星野悠樹

「外国では簡単に解雇できるが、日本では労働者が手厚く守られている」とよく言われる。しかし、それは本当なのか? 労働法の専門家に聞いた。

※本稿は、向井蘭 編著『教養としての「労働法」入門』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

そもそも日本で解雇が認められるケースとは?

「日本では、解雇は難しい」というようなことをよく耳にします。

ここで触れる解雇とは、労働契約が終了する事由の1つのタイプであり、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解約をいいます。使用者が辞めてもらいたい労働者に解雇通知書を渡すのがよくあるケースです。

もっとも、「解雇」という言葉がなくても、「お前はもうクビだ。二度と会社に来なくていい。」など、労働者の意思を問わず、使用者が一方的に労働契約を解約する言動があれば、使用者が労働者を解雇したものと考えられています。

日本には、どのような解雇規制があるのかここで事例を挙げます。

「A社は、その正社員であるBを勤務成績が著しく悪いことを理由として解雇しました。しかし、Bは、A社による解雇にまったく納得しておらず、A社による解雇は無効であるから、今でも自分はA社の社員としての地位があるんだと主張して裁判を起こしました。」

労働者の労働能力の欠如を理由に解雇した事例です。この事例において問題となる解雇規制の条文(法律)が労働契約法第16条です。労働契約法第16条の内容は次のとおりです。

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この規定は、法律の建前では、「解雇は自由」とされていた時代に、裁判所が長年かけて築き上げてきた「解雇権濫用法理」という理論を法律の規定として明文化したものです。

長期雇用(1つの企業に新卒で入って定年まで働くかたちなど)を重視する日本的な雇用システムのなかでは、解雇は、労働者の生活に大きな打撃を与えることなどが多いため、労働者保護の観点から、解雇に対する法的規制が形成・展開されてきたのです。

解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の下では、自由な解雇は認められず、(1)客観的に合理的な理由を欠き、(2)社会通念上相当であると認められない解雇は、その権利を濫用したものとして無効とされます。

したがって、前述した事例においても、A社は、その正社員であるBをまったく自由に解雇できるわけではありません。A社によるBの解雇が、(1)客観的に合理的な理由を欠き、(2)社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効となります。

A社によるBの解雇が権利を濫用したものとして無効であるかどうかの審査においては、(1)客観的合理性の審査として、Bに雇用関係を継続し難いほどの勤務態度不良があったのかどうか(勤務態度不良の有無・内容)などが実質的にみられるとともに、

(2)社会的相当性の審査として、A社は配置転換など解雇以外による対処ができたのではないか、Bに有利なあらゆる事情を考慮しても解雇がやむを得ないといえるかなども実質的にみられることになります。

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