2021年04月07日 公開
2022年10月06日 更新
――会社が大きくなるにつれて、社員も増えてきたと思います。
【南沢】創業当時は1人で何役もやっていたとお話ししましたが、40歳過ぎまで続きました。1日24時間働いていましたね。午前中はテレビ局の仕事と事務的な仕事、昼からは打ち合わせをして、CMのディレクターをして、ラジオ番組を作って、夜はラジオ局で深夜放送の仕事をして、さらに週末は地方収録や地方イベントがあって……。自分のスケジュールを確認すると、1年のうち360日働いていました。今ならとんでもないブラック企業ですよ(笑)。そこで出会った人たちが、その後の財産になりました。
社長でありながらそんな働き方をしていたのは、バブル期で人が採用できなかったからです。募集しても集まらない。採用しても、すぐ辞める。だから、自分で働いていたんです。
ある演出家の紹介で、ミュージカルが大好きで当社で働きたいという歯科医の息子を採用したことがあるのですが、雑用をさせると潰れるんじゃないかと感じたので、新入社員の彼よりも社長の私のほうがよく雑用をこなしていたこともありました(笑)。
40歳を過ぎた頃、ADがいないので、1本がビジネスバッグぐらいの大きさのテープを20~30本、テレビ局に自分で納品に行ったら、プロデューサーから「南沢さん、こんなこと社長がやってちゃダメだよ」と言われました。ちょうどバブルが弾けて若い人材の採用もできるようになっていたので、その言葉を機に、働き方を変えました。
――そこまで働いていると、働き方を変えるのも難しかったのでは?
【南沢】「自分がやるから」と言ってしまうことはありましたね。何でも自分でやっていたときは、携帯電話もなかった時代だったこともあって、仕事相手との1対1の人間関係は絶対的なものだと思っていました。それが染みついて、長い間、人に任せられなかったのかもしれません。
でも、もっと歳を取ってくると、やろうとしても身体が動かなくなる(笑)。それに、若い人のほうが優秀だということがわかってきました。
――今は、社長の役割は?
【南沢】寂しい思いをしております(笑)。スタジオに行くと「社長が来たぞ」と構えられちゃうんです。そこでひと言でも言うと、制作者や監督の意図を超えてしまうことがあって、すごく反省したことがあります。スタジオや現場に行かないことが社長の仕事なんだなと思うようになりました。
その代わり、これまで当社がやってこなかったことを、創業の精神に立ち返って考えるようになりました。
例えば、今では多くなりましたが、その頃はほとんどなかった朗読を始めました。2時間かけて劇場で朗読をすると言うと、キャストも驚いていましたよ。
舞台も音楽も朗読も、仕掛けてやったことは、全部、今では当たり前になりましたね。
――外れたことはないですか?
【南沢】ないですね。時間がかかっていることはありますが。それは、当社のスタッフィングやキャスティングに時間がかかっているものもありますし、媒体に目を向けてもらうために時間がかかっているものもあります。
媒体にはそれぞれに向いているものがあります。例えば、地上波のテレビ番組がすべてだった時代には、歌手は『紅白歌合戦』に出場することで活躍の場を広げられました。しかし今はYouTubeやTilTokが登場し、それがSNSで拡散されることで活躍するようになった歌手が多くいます。YouTubeやTikTokという媒体に向いた歌手が活躍できるようになり、音楽業界も大きく様変わりをしました。
声優の場合は、まず作品があって、そのキャラクターを演じたり、歌を歌ったり、キャラクターと一体化するのが基本だと思います。そのうえで、キャラクターから離れて声優個人として活躍する場も必要です。もう1度、2度、時代が迎えに来てくれて、それに合った媒体が出てくるのではないかと思います。
私たちが手がけているサブカルチャーは、地上波のテレビ番組には、本来、あまり向きません。地上波では「放送されるはずがないものにこだわって」、様々な媒体で展開、プロデュースすることに力を入れていきたいと思っています。
――その他、今後に向けて、特に注力していることは?
【南沢】BSを中心に、テレビ局に改めてプロモーションすることを考えています。また、豊島区のようにサブカルチャーに力を入れている自治体に、新しい声優活動のあり方を提案したり、協働して人材育成をしたりソフトを作ったりもしていきたいと思っています。
また、出演者だけでなく、ライター・作家も育てたい。その教育の場を設けて、人気声優などの表現者と、放送や配信、ライブステージなどでコラボする若い才能を発掘できないだろうかということを、強く思っています。
発掘と育成は、当社に限らず、永遠のテーマではないでしょうか。
――最後に、海外事業についてもお教えください。
【南沢】当社の事業は基本的にはインバウンドなのですが、当社を含めた6社で製作委員会を作り、日本の教育番組を制作するノウハウをベトナムに輸出することを始めました。そのノウハウを活かして、番組自体は現地で制作します。
人材育成は、どの国にとっても重要なことです。次世代を担う人材の育成に協力していくことは、国内、国外を問わず、大切なことだと思います。日本で培われた人材育成のノウハウが、ベトナムに根づくことを願っています。
更新:11月23日 00:05