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一流企業のトップに「傍流出身」が増えている理由

2021年03月25日 公開
2023年02月21日 更新

冨山和彦(経営共創基盤[IGPI]グループ会長)

冨山和彦著『リーダーの「挫折力」』
(写真撮影:長谷川博一)

経済危機、震災、そしてコロナ禍と相次ぐ危機の中、世界中で「リーダーの資質」が問われている。そんな中、子会社出身や出向経験者といったいわゆる「傍流」出身のトップが増えている。ポストコロナのリーダー論を説く『リーダーの「挫折力」』を上梓した冨山和彦氏によれば、その理由は「挫折経験の有無」にあるという。詳しいお話を伺った。

※本稿は、冨山和彦著『リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)の内容を抜粋・編集したものです。

 

なぜ「傍流出身」のトップが増えているのか

近年、いわゆる「傍流出身」の経営者が増えている。事実、大復活を遂げたソニーにおいても、いわゆる「傍流出身」のトップが続いている。

現社長の吉田憲一郎氏は子会社のソネットへの出向経験者であり、そこで業績を上げたことでソニー本社に呼び戻された人物だ。その吉田氏を呼び戻した前社長の平井一夫氏も、子会社であるソニー・コンピュータエンタテインメント出身。エレキ企業だったソニーにとっては傍流中の傍流だ。

このことはまさに、「挫折力」の重要性を表しているといえるだろう。権力闘争に敗れて左遷されたり、子会社の悲哀を味わったりすることで、「権力の怖さ」を身にしみて体験することができる。そして、その経験があるからこそ、権力というものを使いこなすことができるのだ。

挫折を知るとは、敗者を知ることでもある。彼らも挫折を味わうまでは、小なりといえど権力を持っていたはずだ。だが傍流に行くことで、これらの権力に使われ、虐げられるという体験をする。人間の心の痛みや、そこから生まれる怨念や嫉妬といった、心の闇を我が事として体験する。

こうして権力を行使する立場、行使される立場の両方がわかるから、権力の両面や本質が見えてくる。だからこそ権力を上手に使える、すなわち人を上手に使えるリーダーとなり得るのだ。

常にメインストリームを歩んできた人間は、そこがわからない。常に権力を行使できる者に近い位置にいるため、権力を行使された経験がない。権力に虐げられ、煮え湯を飲まされた経験がないから、権力の本質がわからない。

そんな人物は「有事」にも脆く、自らの権力を有効に行使できない。人間の想像力、思考力というものは、結局は自ら身をもって体験したことに規定される。だから宗教家は修行という人間世界の苦悩を疑似体験することで悟りを開こうとする。

私たちは自分以外の人の力を借りずに生きていくことはできない。特にリーダーという仕事は、実はほとんどすべての事柄を、組織の構成員に頼って実現していく仕事だ。リーダーほど、他人に多くを頼る仕事はないのだ。

人の心、いろいろな立場、いろいろな状況、特にネガティヴな状況での人間の心情に思いを馳せる能力なくして、組織を動かすことはできない。権限規定上の業務命令権で組織が動くなら、経営者も中間管理職も必要ないのだ。

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