2021年03月08日 公開
2023年02月21日 更新
いまだ先の見えないコロナ禍ではあるが、ワクチンの接種が始まるなど、少しずつ収束の兆しも現れている。
多くの店や企業は現状のやりくりに追われていると思われるが、「今だからこそ、アフターコロナへの準備をしておくべき」と主張するのが、著書『「顧客消滅」時代のマーケティング』にてコロナ禍およびコロナ後を生き抜くためのマーケティング手法を説いた小阪裕司氏だ。では、コロナ後に訪れる新たなビジネスの潮流とはどういったものなのだろうか。
※本稿は、小阪裕司著『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。
人類はこれまで、さまざまな疫病を克服してきた。現在、複数のコロナワクチンの開発が進んでおり、春からワクチン接種が始まる予定になっている。コロナウイルスが世界に広まってから約1年でここまでこぎつけているのだから、まさに人類の底力を見る思いがする。
では、ワクチンが普及し、人類がCOVID-19の恐怖から逃れることができれば、世界は再び元通りになるかというと、それはない。今起きていることのほとんどは、将来起こるはずだった未来の前倒しだからだ。
在宅勤務に慣れてしまった人が、再び毎日同じ時間に通勤するとは思えない。人通りはある程度戻っても、人々の行動のすべてがかつてに戻ることはない。
ECサイトの便利さに慣れてしまった人が、日用品をまたリアル店舗で買い出すとは思えない。コロナウイルスの心配がなくても、人はもう不必要な「接触」や「密」は避けるだろう。一方、必要な「リアル」には人が殺到する。
これからのビジネスは、このような「新しい社会のありよう」をもとに組み立てていく必要がある。それに加えて、従来から進んでいた変化が、今後ますます加速していくはずだ。具体的には以下の「三つの潮流」が加速していくことになるだろう。
一つは「業種分類は消滅する」というものだ。たとえば美容院なら美容院、書店なら書店という縛りがあいまいになっていく。この変化は必然である。顧客はモノを買うことで「心が豊かになる」体験を求めている。
逆に言えば、食べ物だろうとモノだろうと、それを通じて心を豊かにしてくれるのなら、モノのジャンルは何でもいいのだ。
この動きは、明らかに加速している。書店がいい例だ。かつて「ヴィレッジヴァンガード」のようなさまざまな商品を売る書店は非常に珍しかったが、いまや書店店頭でモノを売ることは当たり前となり、カフェ併設の店も増えている。「カフェなのか、雑貨屋なのかわからない書店」の時代なのだ。
ちなみに新大阪にあるバーでは今、バーでアクセサリーの販売をするという実験を行っている。ある作家のアクセサリーを販売したところ、ひと月で約10万円の売上があったという。
それだけでもすごいことだが、店主は今後、「ウヰスキーを嗜みながらアクセサリーを選ぶ」という場にしていくとともに、自宅で眠っているアクセサリーや指輪のリメイクや修理等も受けつけていこうと考えているという。
そして今回の取り組みをきっかけに、さらに別ジャンルの新しいサービスの提供を考えているという。こうなるともう、単なるバーではなくなる。実はこの「業種分類は消滅する」という潮流は、メーカーにもあてはまる。
その好例はソニーだ。かつてはパソコンや家電を作る「製造業」だったが、現在のソニーの収益は映画やゲーム配信などの比率が高まっており、もはや「製造業」という枠でくくれなくなっている。
ご存じの方も多いと思うが、『鬼滅の刃』をプロデュースしたアニプレックスも、ソニーグループである。あるいは、富士フイルムの売上に占めるフイルムの比率はごくわずかであり、一方で、医薬品や化粧品なども手がけている。
こうした企業を「〇〇業」という枠でくくろうとすること自体がナンセンスだ。そして、元気な企業ほど、こうした枠にてくくれないという傾向があるように思う。
ソニーも富士フイルムも、コロナ禍にあって好調を維持している。むしろ、旧来型の「〇〇業」でくくれてしまう企業のほうが、軒並み苦戦している印象だ。
これから自分が何を顧客に提供するかを考えるにあたっては、ぜひ、「自分の今の業種」に縛られず、自由に発想してみてほしい。それが、これからの時代を生き抜くためのカギとなるはずだ。
更新:12月04日 00:05