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日本のITエンジニアの生産性を下げている業界慣習とは? そして、それを乗り越えるには?

2020年08月06日 公開
2023年02月21日 更新

船木俊介(スーパーソフトウエア 東京オフィス代表)

ニーズに応えるための「学び」を続ける

――そうすると、営業担当者がクライアントに話す内容も変わりますね。

【船木】エンジニアにも、本人の適性を見たり、意向を聞いたりしながら、PMOやコンサルティングのような形で、クライアントと直接やり取りをする環境を与えるようにしています。その分、クライアントからいただく金額に応じて、報酬も増やしています。

 そうすると、クライアントのニーズがわかって、それに応えるための勉強を自発的にするようにもなりました。

 先ほど、日本のエンジニアはスキルを評価されないとお話ししましたが、一方で、エンジニアが提供できる価値はスキルがすべてだということも事実です。新しいスキルを学び続けなければ、時代に取り残されて、単価がさらに下がってしまいます。例えば、金融系のシステムのメインフレームに長く使われ続けているCOBOLというプログラミング言語があります。今も使われているのですが、以前に比べるとさすがにニーズが減ってきていて、COBOLのプログラマの単価は下がっています。

――エンジニアがクライアントのニーズに応えるための勉強をするようになり、クライアントにより高い価値を提供できるようになった、と。

【船木】私は、1カ月間ほど、シリコンバレーで現地のエンジニアと働いたことがあるのですが、彼らにとってソースコードが書けることは二の次で、ユーザーのためにどのような製品を作るべきかを重視していました。日本でもユーザー側からの発想ができるエンジニアを増やさなければならないと、そのときに思ったんです。

――どんなスキルのニーズが高いのですか?

【船木】当社だと、例えば、AWS(アマゾンウェブサービス)などのクラウド環境で最適なアーキテクチャを作るスキルなどです。AWSの資格を自分で取りに行くエンジニアもいます。

 IT予算の8割は既存のシステムのメンテナンスだとお話ししましたが、当社の場合は新規に開発する案件も多くあります。ただ、既存のシステムであっても、部分的に更新していくことが必要です。例えば、AS/400というメインフレームは今でも数多く使われていますが、古くなっているので、更新すべきかどうかという議論が各社で行なわれています。そこで、クラウド環境に置き換える提案ができるかどうかが、そのスキルを学んでいるかどうかで違ってくるわけです。

――こうした取組みによって、実際にどのくらい生産性が向上したのでしょうか?

【船木】単に製造工程を請け負っていたときは、プログラマ1人につき月70万円の売上なので、年840万円。そこから、本人の人件費や営業コストなどの間接費を引くと、利益は年180万円ほどになります。これが、1人が1年間で生み出す付加価値でした。

 一方、クライアントの課題解決をしたり、プロジェクト全体のマネジメントをしたりするようになると、単なる作業ではなくなるので、1人につき年4000万~6000万円の売上が立つようになり、本人の人件費を上げても、利益が年2200万円ほど出るようになりました。ですから、生産性は10倍以上になりましたね。

 入社時にはプログラマとして年収320万円だったところから、わずか1年後にはコンサルティングを行なうようになって年収が200万以上増え、さらに年収を伸ばしている社員もいます。

――今後のさらなる取組みとしては、どのようなことを考えていますか?

【船木】クライアントがプロジェクトを進める一連の流れの中で抱える悩みは、だいたい決まっています。例えばアプリなら、収益構造がきちんとできているか、ユーザーの絞り込みができているか、ユーザーの心理の変化を捉えているか、あるいは、社内の各部門の連携がきちんと取れているか、といったことです。これらの解決をセミオーダーで行なうサービスも考えています。

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