2020年07月31日 公開
2023年02月21日 更新
法令と訴訟によってITの発展が監視下におかれるアメリカと違い、中国ではその是非はともかく、新しいテクノロジーの可能性が判明するとまず活用してみたうえで、その後にその利用をどう制限すべきかを国が決める傾向があります。
その結果、自動運転やEV化にとどまらず、社会全体をCASEのキーワードで変えていく動きは、どうやらアメリカよりも中国の方が先行する勢いになってきました。そして中国の動きこそが、自動車業界の未来を変えるビジョンにもなります。
10年後の自動車産業では、グーグルやアマゾンに相当する新たな時価総額100兆円企業が誕生するビジネスチャンスがいくつもあると言われています。その中でトヨタが手にすることができるチャンスは、少なくとも二つは存在します。
一つが、都市交通のコントロールビジネスです。自動車がIoTのパーツとしてネットワークにつながる未来では、鉄道のコントロールセンターが行なっているのと同じレベルで、都市の道路ネットワークの最適化コントロールが可能となります。
ビッグデータをAIが処理する近未来では、信号をリアルタイムで操作していくことで、東京のような大都市の内部でも車による人と物の流れが最適化されていくのです。
そしてこのコントロールと、車が運ぶ人や荷物の情報が加わることで、都市交通のコントロールは都市内部の産業のコントロールタワーへとその姿を進化させます。
10年後の未来に向け、世界の自動車交通ネットワークを誰が管理掌握するかの争いで、それを手にした企業が、運輸網が生み出す経済的な付加価値の大半をコントロールすることができる。これが一つ目のチャンスです。
もう一つのチャンスは、EV車がネットワーク化されることで誕生する仮想電力網です。太陽光発電のようなクリーンエネルギーとEV車は親和性が高く、それがネットワークとしてつながることで、巨大な電力会社と同等の電力ネットワークが都市内部に誕生します。
車が電力網とコネクテッドされ、消費者は現在のように電力を一方的に購入する立場ではなく、電力のシェアエコノミーが成立するようになる。これが10年後には現実になります。
これは世界的な自動車会社が手にする可能性があるビジネスチャンスであると同時に、ひとたびそのビジネスモデルが確立すれば、グローバルなすべての都市で展開できるグローバル拡張性が高いビジネスチャンスでもあります。
今のところこの二つのビジネスチャンスについては、自動車産業よりも中国やアメリカのIT企業の方が先行しています。どちらのビジネスもIT企業が得意とする消費者や生産者をコネクテッドにするプラットフォーム事業です。
高品質の乗用車を他の追随を許さない低コストで製造するというトヨタの慣れ親しんだ優位性とはルールが異なる世界でありトヨタの苦戦は必至です。にもかかわらず、今のトヨタのCASEへのリソース投入レベルが低いことから、10年後のトヨタの未来が危惧されるというのが私の予測でした。
しかし、トヨタが変わればこのゲームの勝者になれる可能性は、十分にあるのです。「我々は自動車メーカーである」という意識を変えるところから始めなければならないので、これは大変なチャレンジになるわけです。
ただやらなければいけないことがわかっている以上、未来はトヨタにも変えることができるはずです。未来を変えるために必要なことは、環境や前提の変化を認識したうえで、これまでの常識を頭から振り払い、新しい現実を直視することなのです。
最後になりますが、新型コロナによって変化が一つ起きたことで、さらに新しい変化が起き始めています。これが未来予測の面白いところです。予測の前提となる要素がダイナミックに変化していく。ですから予測された未来は決して定まった運命ではない。
そして悪い未来を変えるには、そのような新しい変化の芽に気づき、そこに力を注いで変化を起こすことです。日本がアフターコロナを機会に変えて、今の延長線上にある悪い未来からよりよい未来へと経済や社会を変えていくことができるように、筆者としては強く願っています。
更新:11月24日 00:05