2020年04月07日 公開
2022年10月25日 更新
――グループ会社の立ち上がりを支援するスタートアップスタジオには、どんな人材がいるのでしょう?
田口 ほとんどが社内で実力をつけた人材です。マーケティングのプロを外部から採用しているわけではありません。というのも、立ち上げ期のマーケティングは大企業のマーケティングと全然違うからです。
マーケティングやブランディング、デザインなど、各分野に長けたメンバーたちが、プロジェクトベースで、立ち上げのサポートに入ります。
――田口社長に「成功するビジネスプラン」を作る自信が生まれたのは、いつですか?
田口 自信は成功体験によってしか生まれません。
僕はもともとビジネスに自信がなくて、何回もビジネスをやめようと思っていました。途上国の役に立つために寄付をしたいと思ってビジネスを始めたのですが、商売っ気がないので、あまり稼げなかったんです。人を巻き込む力だけはあったので、NGOの広報担当をやったほうが、よほど寄付金を集められるんじゃないかと思っていました。
創業期は本当に苦しくて、親にも親戚にも、社員の親にもお金を借りて、さらには先輩の親にも借りて、生き延びました。家賃も何回も滞納しましたし、創業から7年経ち、3人目の子供が妻のお腹にいた32歳のときに東京から福岡へ転居する際には、敷金20万円が払えなくて父親に連絡しました。
それでもなんとか踏みとどまっている中で、ボーダレスハウスというシェアハウスの事業が成功して、その次に、先ほどお話ししたAMOMAも、さらにバングラデシュでの革製品の事業であるビジネスレザーファクトリーもすぐに軌道に乗り、3つ連続で事業を成功させることができました。それではじめて自信がついたんです。
その過程で、「10億円規模のビジネスはちょうどいいな」とも感じました。ある社会課題に対して、キラリと光るソリューションを作り、その市場でNo.1のブランドであり続ける。一つひとつは10円億程度のコンパクトな会社だが、そんな会社がたくさん集まったほうが、一つの巨大企業を作るよりも変化に強い。そして、働く人も皆の顔が見えて楽しい。1社で1,000億円など、規模を追いかけようとすると、ついつい売上げのために事業アイデアを考えるようになり、どこかで目的と手段が逆転しています。売上げや利益はあくまで事業を継続して拡大していく手段や指標であって、それが目的となって事業を作り始めては本末転倒ですから。
ソーシャルビジネスは稼ぐ力がないと言われるのが悔しくて、僕は初めからソーシャルビジネスで1兆円の会社を作ると言っていました。それは、10億円のビジネスを1,000個作れば可能です。志のある起業家は軽く1,000人以上います。10億×1,000社で1兆円。その規模は確実に作れます。
――グループ会社の社長たちには若い人が多いですが、志ある人は若い人に多いのでしょうか?
田口 どうしても、年齢を重ねると家庭など背負うものが大きくなって、トライしづらくなりますよね。
僕らはトライする人たちが個人的なリスクを背負わなくて済むようにすることが大切だと思っているので、起業家自身の持ち出し資金はゼロにしています。
起業家が個人でリスクを負うべきでないと考えているのは、先ほどお話ししたように、僕自身が創業期に苦労したからです。僕は、三枝匡さんが〔株〕ミスミグループ本社の社長になって、新卒採用を始めたときの1期生で、そのとき10数人いた同期のうち5人が創業期のボーダレス・ジャパンに来ています。優秀なメンバーがいてくれてもこんなに苦労するのだから、ビジネスの経験がない人が一人で起業して成功するのはとても難しいと、強烈に感じたんです。
ビジネスの経験を積んでから起業したほうが成功の確度が高くなると考えて、企業に就職する学生も多く見てきましたが、起業に必要なスキルとできあがった仕組みの中で仕事を回すスキルはまったく違います。だから、新卒3人に1,000万円を渡して実際に自分たちで考えた事業を立ち上げてみるという起業家育成プログラムも今年から始めました。社会のために起業に挑戦したいという人のためにボーダレスグループはあるので、ぜひ、どんどんトライしてほしいですね。
――最後に、今後の目標を教えてください。
田口 「ボーダレスは国連だ」という話をしましたが、国連の事務総長のように、ボーダレス・ジャパンの社長も任期制がいいんじゃないかと思っています。会社は創業者に依存しがちですが、それは持続可能な発展の形ではありません。あと5年以内に僕がいなくても会社が回る仕組みと年間100社を立ち上げる仕組みを作り上げることが今の目標です。
《写真撮影:まるやゆういち》
更新:11月23日 00:05