2020年02月12日 公開
2024年12月16日 更新
昨日の勝ち組が一瞬で負け組になるような、変化の激しい時代。こうした時代の荒波を乗り越え、今も躍進し続ける「長寿企業」にこそ、生き残りのヒントがあるはず。今回取材したのは、今年100周年を迎えるキクチメガネ。理念の実現のために「眼鏡専門学校」まで作ってしまった同社の戦略とは。社長の森信也氏にうかがった。
100年前の1920年、「菊池屋眼鏡店」として創業したキクチメガネ。4代目の森信也社長は、創業以来大事にしている理念を次のように語る。
「キクチメガネでは、お客様の視力にかかわる、すべての『視』生活の大切さをアピールし、総合的にお世話する『ビジョンケア』を目指しています。
そのためには単に機械的に眼鏡を作るのではなく、お客様の生活スタイルや仕事に合わせた眼鏡作りが必要です。顔にぴったりフィットすることはもちろん、何をどう見たいかでも調整方法は変わってきます。視力そのものも、朝と夜とで変化します。
これらを踏まえ、本当にお客様一人ひとりに合った眼鏡をご提供できなければ、再来店してくださることはありません」
「菊池屋眼鏡店」の店舗
キクチメガネがチェーン展開をしたのは、1943年に就任した2代目の森文雄社長の時代だ。若い頃に欧米の最先端の技術に触れ、それを日本でも導入し、理想の眼鏡作りを実現すべく仕事に没頭した。
「先々代の言葉に、眼鏡を提供する仕事は、単なる物品小売業ではないというものがあります。
その思いの下、志を同じくする会社とのボランタリーチェーン展開により同志を増やす一方、お客様の目の健康に貢献すべく、光学をはじめとした最新知識を追求し、海外視察も積極的に行ないました」
そんな中で直面したのが、日本の「遅れ」だったという。
「諸外国では眼鏡の販売は国家資格を持つ専門家が行なうのが一般的です。日本では当時も今も、こうした国家資格が確立していません。これでは、正しい眼鏡を提供できないと、1978年に眼鏡専門学校を設立しました」
このキクチ眼鏡専門学校では「認定眼鏡士」などの資格を取得できる。そこで培われた技術はキクチメガネのみならず、日本の眼鏡業界全体に貢献している。
多くの長寿企業と同様、キクチメガネも長年にわたって利用し続けてくれる既存顧客を持つ。顧客継続のための工夫とはどういったものだろうか?
「販売後、『何かあったら来てくださいね』と言うだけでは、本当に来てくださる人はごく少数です。本当に来てもらうには、なぜ再来店してもらうべきかを『伝えきる』必要があります。
例えば子供は視力が変わりやすく、それに合わせて調整する必要があるのですが、若いうちは目の調節力が高いので、自分では合っていないことに気づきにくい。その結果、合わない眼鏡を使い続けてしまうことになるのです。
これは眼鏡店にとっては当たり前でも、お客様はあまり知らない。だからこそ、しっかり伝えきることが重要なのです」
接客の基本となるのが、長年受け継がれてきた「顧客情報」だ。名前や購買履歴だけでなく、生活スタイルや仕事内容、どのようなニーズを持っているかまで細かく記録している。まさに「眼鏡のかかりつけ医のような存在」だと言えるだろう。
更新:02月06日 00:05