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衝撃の逮捕から1年。ゴーン氏の「失敗の本質」はどこにあったのか?

2019年10月17日 公開
2020年01月15日 更新

法木秀雄(早稲田大学ビジネススクール元教授)

「WHY」がシフトしてしまったゴーン氏

それを解き明かすキーワードは、「WHYから始めよ」だ。これは、インターネット講演サイトのTEDでも注目されたサイモン・シネック氏が提唱するリーダーの行動原理だが、この原理を援用することで、ゴーン氏が誰もなし得なかった日産改革を実現できた理由とともに、その後、なぜ経営トップとしての自己規律が緩み、私的な利益追求に軸足が移ってしまったのかをうまく説明できる。

つまり、ゴーン氏の行動軸(シネック氏の言うWHY)が企業経営から、別の個人的な野心達成へと動いてしまったということだ。

経営トップは、急速に変化する市場と競合他社の動向を正確にとらえ、不確実な将来の経営目標と、それを実現するためのシナリオを描き、社員やステークホルダーにそれを共有させて、全力で気迫と情熱を持って執行にあたり、成果を出すという「経営のプロ」であることが求められる。ゴーン氏の最初の5年間はまさに、この条件すべてに当てはまる。

そして、そのためにはマネジメントの基本スキルと専門分野に関する深い知識とともに、倫理観やリーダーシップが求められる。ゴーン氏にはまさにそれが備わっていたわけだが、長年、絶対的権力を握る中で、この倫理観が揺らぐとともに、本来は企業理念やビジョンを追求するために用いられるリーダーシップが、私欲を追求するためのものにシフトしてしまったようだ。

 

ゴーン氏の「負の遺産」

そして、ゴーン氏なき今、「後半の15年」において発生した問題が、いまだに日産を苦しめ続けている。

ゴーン氏は日産の潜在能力やストックを使い切ることには長けていたが、日産の潜在能力を高めるビジョンや知見が欠落していたというのが、筆者の見立てだ。

たとえば、日産とルノーのアライアンス(連携)に関しては、多くの人が肯定的に受け止めているようだ。だが、このアライアンスによりルノーが多くのメリットを享受した一方、日産にどれほどのメリットがあったかというと、正直、疑問を禁じ得ない。日産と比べルノーの技術レベルははるかに低いからだ。

さらに、ゴーン氏は「マーチ」の生産をタイに移すことで、国内生産拠点の空洞化を引き起こした。マーチが国内では売れない車になってしまったことも大きいが、この生産拠点の空洞化の問題は、今後、じわじわと日産を苦しめることになりかねない。

さらに、コミットメント重視で、ひたすら販売台数というスケールを狙ってきたゴーン氏は、海外進出にも積極的だったが、これらもいずれ「負の遺産」として日産に襲いかかる恐れが強い。

ブラジルやロシアの生産工場、あるいはルノーが買収したロシアのアフトワズ(AvtoVAZ)、ルーマニアのダチア(Dacia)といった会社への技術支援や指導に、日産の経営資源が割かれる可能性は高い。

その結果、これから起こるであろうCASE革命(つながる、自動運転、共有、EV化)において、立ち遅れてしまう危険性があるのだ。

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