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なぜ「散歩」していると、いい発想がひらめくのか?

2019年10月11日 公開
2023年02月24日 更新

野口悠紀雄(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授)

 

頭を一杯にしてから歩く

「環境のわずかの変化」を実現する手段として、「歩く」ことは、特別有効です。仕事がゆきづまったときに公園を散歩すると、うまい考えが出てきます。散歩は、「疲れ休め」という消極的なものではなく、積極的な活動です。

歩いていると、想念がふと浮かんできたり、また消えたりします。ふと浮かぶのは、目前のものとは無関係なことが多くあります。「控えの間」にいた観念が、浮上するのでしょう。

頭に材料を一杯に詰め込んでから散歩すると、「材料が頭の中で攪拌されて」、発想ができるような気がします。新鮮な空気が脳を活性化するのかもしれません。足の刺激が発想を促進するという説もあります。少なくとも、体を動かすことは、発想にプラスの影響を与えるようです。「歩く」ことは、アイディアを得るための、最も手軽で最も確実な技術です。

古代ギリシャの哲学者プラトンが遊歩しながら弟子に教えた故事から、その弟子アリストテレスの学派は、「逍遥学派」と呼ばれました。ニュートンやアインシュタインも、散歩が好きだったそうです。

ハイデルベルグや京都などの大学町には、「哲学者の小径」があります。大学のキャンパスも、歩くのに適切な環境になっています。こうした環境は、都心のビル街では得がたいでしょう。企業は、森の中の湖のほとりに事務所や研究所を作ったらどうでしょう? アメリカでは、金融機関のオフィスなどで、実際にそうした例が生まれています。

ただし、再度強調しますが、重要なのは散歩の前に頭を材料で一杯にしておくことです。それがなくては、息抜きに終わります。私の経験は、それを強く裏付けます。本の執筆中には、散歩すれば必ずアイディアが出てきます。しかし、集中した仕事をしていないときには、単なる散歩に終わります。頭が空では、いくらゆさぶっても、何も出てこないのです。

【ポイント】「頭を材料で一杯にしてから歩く」ことは、発想のための最も確実な技術。アイディアが生まれるのは研究室ではない。

 

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著者紹介

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授

1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。

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