2019年10月15日 公開
2023年02月24日 更新
27歳でソフトバンク〔株〕の社長室長に就任し、孫正義氏のもとで「ナスダック・ジャパン市場開設」「〔株〕日本債券信用銀行(現・〔株〕あおぞら銀行)買収案件」「Yahoo! BB事業」などにプロジェクト・マネージャーとして関わった三木雄信氏は、孫氏は「わらしべ戦略」で会社を急成長させてきたと言う。いったい、どういうことなのか?
※本稿は、三木雄信著『SQM思考ソフトバンクで孫社長に学んだ「脱製造業」時代のビジネス必勝法則』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
日本有数の大企業になった現在のソフトバンクしか知らない人は、「もともと資金力があったから、ここまでビジネスを拡大できたのだろう」と考えるかもしれません。
しかし少し前まで、ソフトバンクは数あるベンチャー企業の中の1社に過ぎませんでした。「Yahoo! BB」の事業を立ち上げた当時でさえ、孫社長以外のプロジェクトメンバーは私とエンジニア二人だけで、与えられたのも小さな雑居ビルの一室でした。
その直前にITバブルが弾けて、ソフトバンクの株価は時価総額で100分の1にまで転がり落ちていました。だからお金もなければ、人手もない。スタートアップと同じような小所帯からの再スタートでした。
ところが、それからわずか3年後には日本テレコムを買収。さらに2年後にはボーダフォン日本法人を1兆7,500億円で買収し、ソフトバンクは通信事業会社として一気に拡大を遂げました。
ここまでの急成長を可能にしたのが、「わらしべ戦略」です。
皆さんもわらしべ長者の話はご存知かと思います。一人の貧しい男がわらをみかんと交換するところから始まって、それが上等な着物や馬に換わり、最後は大きな屋敷を手に入れて裕福に暮らしたという物語です。
一見すると価値がなさそうなことから始めて、手元にあるものを何かと交換しながら価値を高め、最終的に本当に欲しいものを手に入れる。
これをビジネスに適用したのが、わらしべ戦略です。
ソフトバンクが参入する前のADSL事業はニッチなマーケットだと思われていて、誰もが「そんなビジネスは儲からない」と考えていました。
要するに、当時のADSL事業は“わら”だったわけです。
しかしソフトバンクはその狭い領域を一気に押さえてナンバーワンになります。獲得した顧客数は500万人に上りました。
孫社長はこの実績と交換に、日本テレコムを買収します。
「ソフトバンクには500万人のユーザーがいて、しかもその人たちはIP電話を使える。私たちと一緒になれば、日本テレコムの固定電話サービスとのシナジーを生み出して、会社を大きくできます」
この孫社長の言葉に価値を見出した日本テレコムは、買収に合意。ソフトバンクは日本テレコムが持つ数百万人のユーザーと通信業界の優秀な人材を手に入れます。
こうして通信事業会社としての実績も手に入れたソフトバンクは、市場から高く評価される存在となり、以前だったらとてもできなかったような巨額の資金調達が可能となりました。日本企業によるM&Aとしては当時の史上最高額となる1兆7,500億円でボーダフォンを買収できたのは、そのためです。
こうしてソフトバンクは携帯事業も固定電話事業も持つ総合通信事業会社となりました。その後もiPhoneを日本で独占販売するなどの快進撃を続け、超高速で会社を拡大していったのです。
こうして世間の人たちが「価値がない」と思っていた事業からスタートし、その実績をより価値あるものへと次々に交換しながら、ソフトバンクは現在のような巨大企業に変貌を遂げたのです。
資金量や実績がなくても、「まずは狭い領域でいいからナンバーワンになる」という孫社長のセオリーを実践すれば、事業を大きく発展させていくことが可能だということです。
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更新:11月22日 00:05