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外資系勤務から大学准教授、そして起業。雇用機会均等法1期目の女性社長の異色キャリア

2019年09月11日 公開

山口葉子(ナノエッグ社長)

 

子供のアトピーから「皮膚のバリア」を作る商品を開発

 よくベンチャー企業には「デスバレー」があると言われますが、研究費をいただいて研究をし、それをもとに開発した商品がすぐに売れたので、当社にデスバレーはありませんでした。

 しかし、費用対効果が悪いマーケティング施策に費用をかけすぎたため、4年ほどすると資金繰りが悪化しました。当時は社長ではなく、研究開発本部長の立場だったのですが、倒産することになってしまうなら、最後の責任は創業者である自分が取るしかないと考え、会社の借入金数億円の個人保証を引き受けました。

 夫に言うと、さすがに一瞬、絶句しましたが、「失敗するなんて思っていないから、個人保証で借りているんだろう」と言われました。子供からも、「大学の先生のママも尊敬できるけど、社長のママのほうが格好いい」と言われました。家族からの後押しも力になりましたね。

 そこでしたことは、まず、徹底したムダの排除です。裏紙を使うようにして、カラーコピーも禁止しました。そして、聖マリアンナ医科大学発のベンチャー企業ですから、そのブランド力を活かせる地元の神奈川県のタウン誌だけに広告を出すことにしました。すると、3カ月で黒字に戻すことができました。

 その後も経営状況が悪くなったことがありますが、そういうときに立ち返るのは、「本当にやりたかったこと、自分たちにしかできないことはなんだろう?」ということです。昨年発売した「MediQOL(メディコル)」も、この問いから生まれた商品です。

 MediQOLは敏感肌の方のためのスキンケア化粧品で、アトピー性皮膚炎の方のための研究から生まれました。実は、私の子供がアトピー性皮膚炎なんです。私も親としてその苦しみを経験しましたから、「アトピー性皮膚炎の方のための商品を作りたい。それこそが私たちにしかできないことだ」と考えて、10年以上前から考えていました。

 

 

 アトピーは、皮膚の病気ではなく、免疫の病気だと考えられてきました。皮膚から菌が侵入して炎症を起こす病気なので、その炎症を抑えるための研究ばかりがされてきたんですね。皮膚から菌が入らないようにする方法は、ワセリンを塗るくらいしかありませんでした。MediQOLは、皮膚を構成する成分をもとに作られていて、菌が入らないように皮膚のバリアを作る働きをするものです。

 皮膚を構成する成分というのは、本来、細胞が作るものです。細胞が作るものを工場で作ろうというわけですから、何度も失敗しましたよ(笑)。開発は、なかなか大変でしたね。

 

想像力がない人は、いつか会社で不要な人になる

 若い方に向けて講演をする機会もありますが、そうした場で起業したいという方にお話ししているのは、安易に会社を作ってはいけないということです。大きな会社で働くほうがラクですよ(笑)。ただ、起業をすれば、チャレンジをする面白さが味わえます。おかげ様で私はとても楽しい人生を送っていると感じています。

 企業で働かれる方に向けては、想像力がない人はいずれ要らない人になるとお話ししています。「こうなったら、次はこうなる。だったら、こうしなきゃ」と考えられなければダメです。こうした想像力がない人は、人の上に立つことができません。もしあなたが部下を持つ立場なら、部下が想像力を鍛えられるように、正解を言わず、自分で考えさせることも大切ではないでしょうか。

著者紹介

山口葉子(やまぐち・ようこ)

〔株〕ナノエッグ代表取締役社長

ダウコーニング〔株〕、横浜国立大学大学院工学研究科人工環境システム学専攻に勤務後、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター客員教授(現職)。科学技術振興機構プレベンチャー事業サブリーダーを経て、2006年に〔株〕ナノエッグを設立、代表取締役社長に就任。12年、Japan Venture Awards中小企業庁長官賞受賞。17年、第3回日本ベンチャー大賞の経済産業大臣賞「女性起業家賞」を受賞。ドイツ・バイロイト大学自然科学群卒業、理学博士。

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