2019年07月19日 公開
2022年11月02日 更新
――休日はゴロ寝か、せいぜいゴルフ。「これ以上休みが増えても暇を持て余すだけ」という声も意外に多い。大前氏は、どのように休日を過ごしているのだろう。
「私の場合、若い頃からダイビングやバイクツーリングのようにやりたいことがまずあって、それをやるための予定を先に入れてしまう。だから、暇を持て余すという感覚が私にはよくわからない。
仕事はもちろん大事だが、それよりも大事なのは自分の人生だ。会社のために身を粉にして働いたところで、会社が一生面倒を見てくれるわけではない。いまわの際に、『あれもできなかった』『これも叶わなかった』と後悔したくなければ、やりたいことを最優先してライフプランを立て、休日、夜、週末などはそのために使うことだ。
それから、『やりたいことは定年後の楽しみに取っておこう』などとは、ゆめゆめ思わないこと。私はこれまで1,000人を超える経営者と仕事をしてきたが、それができた人はまずいない。
よくあるのが、いつまでもずるずると会社にしがみついてエネルギーを使い果たし、引退した途端に急逝したり、そのまま老人ホームに直行したりするケース。
また、ある人は現役時代、『引退後は瀬戸内の小さな村に夫婦で移住して、釣り三昧の毎日を送る』と夢を語っていて、実際、その通りにしたのだが、やってみると釣果を褒めてくれるのは妻だけで張り合いがないし、釣った魚を近所にお裾分けしても、周りは皆漁師だから誰もありがたがってくれないと、結局、すぐに釣りをやめてしまった。
世界中を旅して珍しい景色を写真に収めるのが夢だと語っていた人もいたが、彼も、引退したら誰も写真を見に来てくれない現実に失望し、今では旅行に行ってもカメラは持たないそうだ。
ソニー創業者の盛田昭夫さんは、テニスでもダイビングでも、年齢に関係なく挑戦するバイタリティの持ち主だった。スキーも好きで、私が毎年オーストリアのアールベルクのレッヒに家族で滑りに行くという話をしたら、自分も行きたいと言い出した。
そこで一緒に行くことにして、1年前から予約をしていたのだが、直前になって、『経団連からイタリア行きのミッションの団長を頼まれたのでキャンセルする』という連絡が入った。
私なら、旅行の予定が先なのだから経団連のミッションなど即座に断っただろうが、盛田さんにはそれができなかったのである。そして、ほどなく盛田さんは脳卒中に襲われ、スキーもできないままあの世に行ってしまった。
つまり、やりたいことというのは、やりたいと思ったときが旬であって、そのときやらなければダメなのだ。理由をつけて先延ばししていたら、それをやる機会のないうちに人生が終わってしまうかもしれないし、歳を取ってからやっても、若いときと同じように楽しめるわけではないのである」
――やりたいことをすぐやるべきなのは、それがそのまま定年後の準備にもなるからだという。
「ダイビング、ジェットスキー、バイク、スノーモービル。これらはすべて、若い頃に始め、現在も継続中の私の趣味の一部だ。同じことを定年になってから始めても、おそらく一つもモノにならないだろう。これは非常に大切なことなので、ぜひ覚えておいてほしい。
『いずれ時間とお金に余裕ができたら』などと言っていたら、首尾よくそのときが来たとしても、精神的にも肉体的にも楽しめなくなっているかもしれないのだ。それで、高齢者の趣味というと、すぐにできる犬の散歩と蘭の栽培に落ち着いてしまうのである。
人生を死ぬまで楽しむには、八つの趣味が必要だというのが私の持論だ。趣味には、『室内で個人』『室内でグループ』『屋外で個人』『屋外でグループ』という四つのジャンルがあるので、それぞれ二つずつで合計八つとなる。定年になってから『八つの趣味を始めましょう』と言っても、そんなのはムリに決まっている。
だからこそ、若い頃から色々なことに挑戦して、『これは生涯の趣味になる』というものを見つけておくことが絶対に必要だ。
私には『やりたいことは全部やれ!』(講談社文庫)という著作がある。自分の人生なのだ。やりたいことは全部やろう。そのために休みはあるのさ」
更新:11月25日 00:05