2019年05月05日 公開
2023年03月07日 更新
日本の企業の99.7%が中小企業であり、日本の雇用のおおよそ7割を支えている。だが、中小企業の多くは、販路の拡大や収益性に課題を抱えている、との調査結果がある。また、人口減少、少子高齢化を受け、大きな流れでみれば、国内市場は縮小していく傾向にある。
これらの課題に取り組むにあたり、1つのアプローチとして、付加価値のある新しい商品・サービスを提供することは喫緊の課題といえるだろう。ここでは、大手電機メーカー、外資ITなどで幅広い分野のマーケティングに20年以上携わり、中小企業診断士でもある筆者が、中小企業だからこそ取り組める、顧客が喜ぶ付加価値を生み出す考え方のヒントを事例を通じて伝える。
宮内庁御用の高級ビニール傘を製造・販売するホワイトローズ(東京都台東区)。創業享保6年(1721年)の老舗で、創業時は油紙で雨合羽の製造をしていました。アメリカの進駐軍が日本にもってきたビニールのテーブルクロスを先代が目にし、それを当時主流であった綿の傘に貼り付けることを思いつきました。その後、ビニールを直接傘の骨に貼ることを考え、5年間の開発期間を経て、日本初の透明ビニール傘をつくったといいます。
1960年代半ばに、来日したアメリカの洋傘販売会社のバイヤーが同社のビニール傘に目をつけ、取り扱いが決定したことで、しばらくはアメリカへの輸出が増えましたが、その会社が台湾に製造工場をつくり、オーダーがストップ。このときの苦い出来事をきっかけに、日本国内で付加価値のあるビニール傘を普及させることを決意しました。
傘というものは、一般的には、単に「雨に濡れないための道具」であると考えます。ファッションメーカーであれば、ペルソナを踏まえたデザイン性や色、場合によっては、サイズなども加味された商品として市場に出すでしょう。ただ本質的な役目としては、「雨に濡れないための道具」と捉えているはずです。
同社の場合には、傘を「人間を風、雨、雪から守り、安全に帰宅していただく道具」と定義しています。これは現上皇后の美智子さまから「透明で丈夫で使いやすい傘」とのご要望があったことと関係しています。
商品・サービス開発の原点は、本質的にどのような役割を担うのか、定義づけがすべてであるといっても過言ではありません。もし単に「雨に濡れないための道具」であれば、いかにコストを下げるか、が最も重要なテーマになるでしょう。その代表格は、駅のコンビニで販売されているビニール傘です。
一方、傘を「人間を風、雨、雪から守る道具」と定義すれば、どのようにすればそのような傘の開発が実現できるのか、豊かな発想が生まれます。人を守るためには、丈夫な素材、耐性、耐風、強度など、「人を守る」を実現するための重要な項目を考え、それぞれある一定の品質基準をクリアするものづくりが求められます。
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更新:11月25日 00:05