2019年03月28日 公開
2023年03月10日 更新
何が起きてもおかしくない時代だからこそ、専門家の意見を鵜呑みにせず、自分の頭で答えを出す思考力が欠かせない。そのために、「ちょっと先の未来」を予測するトレーニングがうってつけだ。卓越した分析力を持つ経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏に、未来を予測する考え方や、そ
の力を養う経済クイズを出題してもらった。
未来を予測する力は、ビジネスに役立つスキルであり、この力を高めるトレーニングは「考える力」に直結します。その力を養うためのポイントは三つあります。
一つ目は、5年先の未来を予測することです。こう言うと、「予想外な出来事が起きて、予想通りだったためしがない」と思うかもしれません。しかし、その「予想外」を予測することこそが大事なのです。
実は、どんな予想外な出来事も、5年前には萌芽が出ています。例えば、今、世界が注視する「米中冷戦」を、5年前に予測できなかったかどうか考えましょう。
確かに、トランプ大統領の登場は予測不可能だったかもしれませんが、ポピュリズムを代表する人物の登場は予測できたはず。2014年頃は、格差が話題になり始め、その原因にグローバル化が挙げられていました。
その考え方に迎合する勢力が台頭し、アメリカが保護主義に傾くこと、その結果、アメリカの対抗勢力との軋轢が大きくなることも予測できたでしょう。
今起きている出来事のターニングポイントはどこだったのか。その答えを、5年前に探す。そして、今から5年後にどんな変化が起きるのかを予測し、その答え合わせを繰り返すのです。
二つ目は、人口動態を観察すること。人口動態の変化はほぼ確実なので、人口問題に関する精度の高い予測ができるのです。
例えば、日本の労働人口は、2030年には今より1000万人減ると言われています。いわゆる“2030年問題”です。その解決策の一つとして議論されているのが、外国人労働者の受け入れ拡大です。
現在は約120万人の外国人が日本で働いていて、年18%の割合で増えています。仮に2030年まで年10%の割合で増えていくと、およそ400万人。
さらにシルバー人材やAIの活用によって1000万人のギャップを埋めようとしているのが、今の流れであることが見えてきます。
三つ目は、技術の実用化のロードマップを理解すること。 革新的な技術が開発されたニュースを聞くと、すぐにいろんなことが可能になるのではと期待しがちですが、技術の実用化には時間がかかります。
それを理解しないと、未来予測に誤差が生じることになります。例えば、再生医療への応用が期待されるiPS細胞は、製法の樹立から10年以上経ちますが、まだ実用化には至っていません。なぜなら、iPS細胞の癌化やコストの高さなど解決すべき問題が残っているからです。
実用化を阻んでいるボトルネックは何なのか。それを理解できれば、実用化までのロードマップが見えてきます。その技術に関連した未来の動きも、正しく予測できるようになります。
未来を読むために日頃からできる訓練として、「とても変わったこと」に目をつけて、なぜそのようなことが起きているのかを分析してみるとよいでしょう。
最近の例でいえば、JR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」が話題になりましたが、「なぜJR東日本はあのような名前をつけたのか」と考えてみるのです。
私は、ある出版社からこの件の記事執筆を依頼されたのをきっかけに、調べてみました。その結果、この名前の裏に利益を生む仕組みがあることがわかったのです。
話は、上野東京ラインにさかのぼります。東北本線と東海道本線の相互直通運転を可能にした上野東京ラインは、総工費が400億円超の大工事でした。
これが完成したことで、品川の巨大車両基地が不要になり、その跡地を再開発したのが今回の新駅の成り立ちです。膨大な工事費の元を取るためには、不動産開発で儲ける必要があります。不動産価値を高めるには、話題になる新駅のネーミングが必要だったと予想されるのです。
未来を読むためのもう一つの訓練として、「今」まさに起きている変化に着目して、未来を予測してみましょう。
私が注目するのは、自動車業界です。自動車業界では、今まさに「EV化」と「自動運転化」という大きな変化が起きています。
EUでは2028年にガソリン車が禁止されることになっており、いずれガソリン車は世界から消える可能性が高いでしょう。そうなれば、自動車の製造に高度なエンジン技術は必要なくなります。
EV車に必要な蓄電池と、自動運転に必要な人工知能さえ手に入れれば、誰でも自動車を製造できる時代がやってくると予測できるわけです。
このように、未来予測は思考力を鍛えるための恰好のトレーニング方法です。
取材・構成前田はるみ
〈『THE21』2019年3月号〉
更新:11月22日 00:05