では、「どうでもいいこと」と「重要なこと」を見分けるポイントは、どこにあるのだろうか。
「一つは、自分が好きなことかどうか。それをしたいと芯から思えることは、言うまでもなく重要です。
次いで、それが得意かどうかも、ビジネスパーソンなら留意すべきでしょう。いくら好きでも、適性がなければ、プロとして取り組むことができませんから、趣味の領域に留めるのがいいでしょう」
この二つを基準に考えると、自分の「ミッション」にたどり着けるという。
「好きを突き詰めれば、自分が人生において何をしたいかがわかります。適性や才能に注目すれば、社会に対する役割や使命が見えます。そこまで見極められれば理想的。『それ以外のことはどうでもいい』と、自然に思えるはずです」
三浦氏がビジネスパーソンのコーチングを行なう際、最終的に掘り起こしたいのも、「あなたは、本当はどうしたいのか」に対する答えなのだそうだ。
「相談者は、会社の事情、家庭の事情、お金の事情など、様々な背景を持っています。それらをすべて削ぎ落とし、本人の本来の望みをあぶりだすのが私の仕事です。
そこにロックオンすれば、人生の軸が決まります。どうでもいいことに心を悩ませることなく、重要なことだけに注力できる。つまり、人生戦略を正しく組めるのです」
とはいえ、会社の事情よりも自分の事情を優先させることに問題はないのだろうか。
「それを身勝手だと思う向きもありますね。しかし、そうした圧力こそ、自己肯定感を下げる元凶です。
会社や上司に主体を預けるなど、ナンセンスの極みです。自分を確立できていない人間が、どうやって社会に貢献できるでしょうか。一人ひとりが本来の自分を認めて、『THIS IS ME』と周囲に示していいのです」
自分自身を尊重する精神を個々人が持ち、それを組織で発揮すれば、結果として、組織全体がダイナミックに活性化していくと、三浦氏は語る。
「意欲と意志を持って、得意なことを活かす人が集えば、強いチームができます。異なった才能が組み合わされて、イノベーションが起こります。
近年、同質性偏重の組織から、ダイバーシティ重視の組織へと、多くの企業が変わりつつあるのも、そのことに気づき始めているからに他なりません」
自己肯定感の先には、限りなく大きな展望が広がる。しかし、頭でわかっても、なかなか踏み出せない人も多いだろう。
「例えば、『自分の軸が決まっていないので動けません』と言う人が多いのですが、それは順番が逆。動かないと、軸は見つかりません。
やりたいことがわからなければ、興味を強く持った分野を、とにかく学んでみること。それも、『かじる』レベルではなく、少なくとも中級レベルまでは試しましょう。それで『得意』のレベルにまで行かないと思ったら、また別のことを試せばいいのです。取り組んだ経験は決してムダにはなりません。
ここでも再チャレンジ力が必要ですね」
現時点での自己肯定感が低すぎて、「とてもそんなことはできない」という人は、まず「OKグセ」をつけるのが得策。
「『OK』と『ダメ出し』は、頭の中でせめぎ合っています。今が『OK3:ダメ7』なら、習慣によって、その配分を徐々に変えていきましょう。
それには、ハードルをとことん低くすること。ごく小さなことに成功したら自分にOKを出すのはもちろん、『できていないけど、今はOK』でもいい。『隙あらばOK出し』を意識してください」
低いハードル設定は、結果として、高い成果を生むという。
「高い目標を設定しては、クリアできず、落ち込む。これが自己否定のパターンです。
これを逆にすれば、OK出しが増えます。すると、元気と意欲が出てきます。そうなったら、徐々にハードルを上げていきましょう。その先で、いつしかハイパフォーマーへと変身した自分と出会えるはずです」
《取材・構成:林 加愛 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2018年12月号より》
更新:11月23日 00:05