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「アスペルガー社長」はなぜ末期がんを乗り越え、上場を果たせたのか?

2018年10月22日 公開
2020年04月26日 更新

谷口浩(South Pacific Free Bird社長)

「メロンで顔を洗う」小学生

300以上の島が連なる常夏の国・フィジー共和国。自然豊かなこの国がいま、人気語学留学先として注目されているのをご存じだろうか。そのきっかけを作ったのは、谷口浩氏という一人の日本人。フィジー共和国にて語学学校を立ち上げ、業績を急拡大。世界第2位の規模の語学学校へと育て上げ、昨年2月には株式上場も果たした。

そんな谷口氏は「自分はいわゆる重度の『アスペルガー症候群』であり、アスペルガーだからこそ成功できた」と断言する。

「僕がアスペルガー症候群(当時は高知能障害)と診断されたのは、小学校の頃の話です。それまでも、宿題はせず、先生の言うことも全く聞かない子供でしたが、極め付けとなったのは、小学3年生のとき、給食の時間に起こったある事件でした。

その日は特別にメロンが給食に出ました。クラスメイトは皆喜んで、少しでも大きなメロンをもらおうと列をなし、おいしそうに食べたり、大切そうに眺めたりしていました。

そんなクラスメイトを見ていると、僕もとても幸せな気分になりました。ただ、そこでふと思ったのです。『それでも1切れのメロンは、1人の人間しか幸せにしていないなぁ』と」

そこで谷口氏が取った行動は、『メロンで顔を洗う』というものだった。

「僕が滴る果汁を顔中に浴びながらメロンを食べるさまを見たクラスメイトも先生も大笑い。『一切れのメロンがたくさんの人を幸せにしている』と感じ、これからは毎回、こうして食べなければ、とさえ思ったのです」

その時は大笑いしていた先生だったが、数週間後、市の教育委員会と相談し、谷口氏を精神病院に送って検査を受けさせることに。

「当時の精神分析では、『アスペルガー症候群』というのはまだ認識されておらず、『高知能障害』と診断されました。ただ、明らかに今でいう『アスペ』でした」

 

「アスペ」だからこそ「諦めない」能力がある

いわゆる「空気が読めない人」を「アスペ」と呼ぶなど、悪口のように使われてしまうことも多いアスペルガー症候群。谷口氏にも、傍から見ると少し奇妙に思えるような習慣がある。

「たとえば、家に帰るとまず、財布の中の硬貨を500円玉、100円玉……とテーブルの上にきれいに並べる習慣があります。また、体を洗うときに手足を六角柱に見立てて、3回ずつボディータオルで擦る習慣があります。それぞれ、細かく順序が決まっていて、ひとつでも順序が狂えばやり直し。たとえば、タオルで擦る回数が4回になったりしたら、もう一度最初から一連の動作をやり直します」

アスペルガー症候群に見られる「決めた手順を守ることに強くこだわる」という特徴。だが、谷口氏はこうした特徴を「自分には諦めない機能がついている」と前向きにとらえている。

「面倒な行動だと自分でも感じることはありますが、だからといって途中でそれをやめることはありません。つまり、僕は一度決めたことを『諦める』ことができないのです。同様に、仕事においても決めたことを『諦める』のは僕にとってはとても気持ちが悪いこと。『アスペ』の僕にとっては、諦めないことは当たり前のことなのです」

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あまりに親切なフィジー人に魅せられる >

著者紹介

谷口浩(たにぐち・ひろし)

South Pacific Free Bird(株)代表取締役社長 / Free Bird Inst

1972年福井県生まれ。高校卒業後、中国政府のスカラシップを活用し、上海の同済大学に入学。4年の時に中退。その後香港の不動産会社、タイの建築会社に勤務。1997年、アジア経済危機の影響で帰国。父が経営する建設会社に入社するも1年半で辞職。その後石川県金沢市にて、外国人研修生向けに日本語教育などを手掛け、国内企業への人材提供を主な事業とする協同組合を設立。4年間で売上高3億8000万円の規模まで成長させたのち退任。2004年、フィジーでの語学学校の運営を柱としたSouth Pacific Free Bird株式会社を設立。2010年にはフィジー政府から依頼され、底辺高校の再建に着手。日本人生徒の受け入れも始める。
これまでに受け入れた留学生はのべ2万2500人以上。2016年にはステージ4の末期がんを宣告されるが、その後もフィジーで学生のために尽力する日々を送っている。2017年2月2日、南太平洋証券取引所に上場。

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