2018年10月26日 公開
今、外国人観光客に大人気の都市が大阪だ。2017年に大阪府を訪れた外国人は1,111万人となり、5年連続で過去最高を更新。13年に比べて4.2倍に伸びており、日本全体の2.8倍を大きく上回る。いったい、なぜなのか? 大阪の観光政策の司令塔を務める大阪観光局理事長・溝畑宏氏に話を聞いた。
大阪を訪れる外国人観光客が急増している理由として、しばしば指摘されるのが、関西国際空港に就航するLCC(格安航空会社)の便数が日本一であることだ。主に中国や韓国など、アジアの都市との間を結んでおり、大阪を訪れる外国人の7割以上が、中国、韓国、台湾、香港の4カ国・地域からの人たちとなっている。
そして、日本へのLCCの就航のために、観光庁長官として尽力したのが、現・大阪観光局理事長の溝畑宏氏であり、関空へのLCC誘致に熱心に取り組んだのが、当時の橋下徹大阪府知事だった。
「橋下さんとのおつきあいが始まったのは、僕が観光庁長官だったときです。
観光庁長官に就任したのは、リーマン・ショック後の2010年。観光は、それぞれの地域に今あるものをブランディングして価値を高め、国内外に広報することによって、ヒト・モノ・カネを集めるものですから、財政出動がいらない経済政策だと言われています。国も自治体も財政が逼迫している中、観光こそがリーマン・ショック後の日本経済成長のエンジンだと考えて、観光政策に取り組んでいました。
観光庁は国土交通省の外局なのですが、国交省の枠を超えて各省庁からメンバーを集めた観光立国推進本部を設置し、ビザの緩和や無料Wi-Fiの普及、羽田空港の国際化、クルージング船の誘致、MICE(国際展示会や国際会議など)の強化などを進めました。LCCの就航も、そうした中の一つです。
橋下さんも、観光に力を入れることで、大阪経済を低迷から脱却させたいという強い想いを持っていたので、仕事でご一緒する機会が出てきたわけです」
もちろん、単にLCCの便数が増えれば、外国人観光客が増えるというわけではない。大阪の街に魅力がなければならないし、受け入れ態勢も整えなければならない。
街の魅力という点では、大阪は恵まれている、と溝畑氏は言う。
「大阪は、1時間もあれば京都、奈良、神戸、滋賀、和歌山へ行ける、関西エリアの中心に位置しています。そして、国宝や重要文化財の60%が関西エリアに集積しています。
さらに、食や文化、エンターテインメント、スポーツ、医療を含めた健康分野においても、大阪は日本の中でも質の高いものを持っています。もともと、大阪は観光資源に恵まれているのです。
しかも、関西人はコミュニケーション能力や包容力が高くて、おもてなしが上手。そのことが、リピーターを増やしている大きな要因になっていると思います」
すると、カギになるのは受け入れ態勢の整備だ。
「ホテルの誘致や無料Wi-Fiの普及、案内板などの多言語表示、キャッシュレス化の推進など、地道な取組みを、官民一体となって、スピーディに進めてきました。
例えば、飲食店が無料Wi-Fiを提供したり、多言語のメニューを用意したり、カード決済を導入してキャッシュレス化をしたりするためには、お金がかかります。それでも、多くの飲食店が、そうした投資をしている。皆、それだけ本気だということです」
行政が旗を振っても、市民は動かないという自治体も多いだろう。なぜ大阪では、街の飲食店までもが一体となっているのか。
「『投資をした店は、これだけ儲かっているんですよ』というデータを、しっかりと皆さんに示しているからだと思います。
僕は、理事長就任以来、商店街や企業、各種団体、大学など、様々な場所で講演をして、データを示してきました。
観光局の職員にも、『空気で仕事をするな。データを示せ』といつも言っています。目指しているのは、日本一のマーケティング・リサーチ能力を身につけることです。
もちろん、それぞれの施策について効果測定を行なってデータを取り、次の施策に活かすこともしています。
例えば、海外でのプロモーションはイベントからSNSへと比重を移していますが、これも効果測定をしたうえでの判断です」
更新:11月22日 00:05