2018年10月17日 公開
多種多彩な情報を同時にインプットする嶋氏だが、知識が混乱することはないという。
「私の仕事がそもそも同時進行スタイル。CM製作・イベント企画・雑誌編集・ラジオ出演・書店経営など、常時10以上の仕事を並走させています。その環境を快適に感じる私には、併読こそが自然な形なのでしょう。本から得た着想を、CMの企画には役立てられなくとも雑誌になら使える、などと柔軟に活用できるのも楽しいことです」
情報を即座に出し入れできるシステムも整っている。それには、付箋とノートという二つのツールを使う。
「本には、とにかくたくさん付箋を貼ります。知らなかった言葉や印象的な表現、そして興味深いオピニオン。それらが出てくれば逐一貼るので、読み終えた後の本は付箋だらけです。そして、1カ月後、付箋の箇所だけ読み直します。1カ月を経ても『面白い』と感じたものを、ノートに書き移します」
以上のプロセスで情報を整理し、記憶を強化できる。
「ノートに書かれた情報群も、併読する本と同じくバラバラなジャンルが混在しています。赴きを異にした情報を隣接させることで、面白い発想を生む仕掛けです。もちろん、企画につながらないことも多々ありますが、雑談のネタにはなるし、何より自分自身が楽しめることが大事です」
ただ、読書は楽しむためのものであり、やたらと神聖視する必要はない、と嶋氏は考える。
「高尚な趣味であるかのように、大層に捉えるのはストレスの元になります。カジュアルに楽しむのがベストです。私自身、ベッドでゴロゴロしながら読むのが一番好きですし、お酒を飲みながら読むことも多いですね。だから本にはワインのシミがついていたり、店のレシートやカードが挟まっていたり。お風呂で読んだ本はもちろん、水でふやけています(笑)」
本の活字の上に、そのときたまたま得た無関係な情報をメモ書きすることもある。
「文字の上からでも読めるよう、鮮やかなピンクのサインペンを使います。旅先で読んだ本に、駅のスタンプを押すことも。本を大切にする人には『けしからん』と言われそうですが、これによって逆に親しみが増す気がします。後から読み返すと、そのとき居た場所、会った人、考えていたことなどを思い出せて面白いですよ」
「つまらなければ読むのをやめる」のも、カジュアル読書のルールだ。
「なんとなく退屈したり、文体と相性が合わなかったり、理由は様々です。『だいたいわかった』と思ってやめることもよくあります。ノンフィクションは第一章に要旨が書かれていることが多いので、もしそこで満足できたら詳説までは追いません」
途中でやめるのはもちろん、ときには読み始めることなく「積読」にするのもOK。
「そこに罪悪感を覚えるとしたら、これまた本を崇め奉り過ぎです。私の自宅には現在2万冊の本がありますが、そのうち半数以上は積読。一度買ったのを忘れて二度買いした本もたくさんあります」
それらの本も、処分せずに置いておくという。
「その本に、一瞬だけでも興味をもったことは確かですから。積読本も二度買い本も、『自分の好奇心の形』を知る手立てになるのです。それに、後々読み返して愛読書に変身することも多々あります」
こうした考え方は、究極的には読書を「役立てようとしない」姿勢につながる。
「教養をつける、スキルを磨く、仕事に役立てる……読書に目的を設けると、えてして片肘張った気分になり、楽しむことができません。アイデア創出に関しても同じで、『アイデアの元を見つけるぞ』と頑張ると、かえって発想が縮こまります。面白そうな本をただ色々読みたい、と思うだけでいたほうが、結果としていいアイデアが湧いてくるものです。
私を含め、誰かの読書術に従う必要もありません。唯一お勧めできるとしたら、この気楽な姿勢そのもの、と言えそうです」
『フォークの歯はなぜ四本になったか 実用品の進化論』
ヘンリー・ペトロスキー著、忠平美幸翻訳/平凡社
「小さなものの背景にあるビッグストーリーが大好きです」と語る嶋氏。フォークの歯の数、ゼムクリップの形など、身近な日用品が今のデザインになった理由と、そこに至るまでの歴史をひもとくこの本もそのひとつだ。「『当たり前』と思っていることの裏に偉大なイノベーションがある。さらに言えば、今の『当たり前』もまだ進化の途上にあり、これから更なる革新をとげるかもしれない。そんな発見と高揚感を与えてくれる1冊です」
《『THE21』2018年10月号より》
更新:11月24日 00:05