2018年01月09日 公開
2022年06月30日 更新
年齢を重ねるにつれ、身体の衰えとともに、頭の働きも鈍くなってきたと感じる人は多いはず。最近話題の「若年性認知症」の報道に触れるたびに、「もしかして自分も?」と不安に駆られる人もいるだろう。こうした恐れに対し「過剰に恐れる必要はないが、今からできる対策も多い」と指摘するのは、脳科学、応用健康科学に詳しい篠原菊紀氏。歳とともに衰えやすいワーキングメモリという脳の働きや、「脳の衰えを抑制する」生活習慣、簡単な脳トレ方法をうかがった。
※まず、下記の問題を解いてから本文を読んでください。
皆さん、結果はいかがでしたでしょうか。このテストは、認知症が気になって「物忘れ外来」などに行くと、最初に行なわれる「認知症のスクリーニングテスト」を少し難しくしたものです。記憶や情報を一時的に保持し、処理する能力である「ワーキングメモリ」の力を測るテストでもあります。
その成績は歳とともに平均値が下がり、とくに40歳以降は、点数の高い人と低い人の差が大きくなるのがわかります。この差は遺伝的な要因で説明できますが、日常生活が相当に影響を与えると考えられています。日常的に頭をしっかり使い、有酸素運動や筋トレをし、野菜・魚が豊富なバランスのよい食事を摂り、生活習慣病の予防や治療に役立つことをすることで、頭の働きの低下がある程度予防できます。加えて、人とのかかわり、コミュニケーション、とくに高い目的意識を持った社会参加が認知症の予防にも役立ちます。
先ほどのテストで、「自分はすでに認知症の兆候があるかもしれない」と不安になった人もいるかもしれません。ただ、テストがうまくできなかったからといって落ち込む必要はありません。ワーキングメモリは簡単に鍛えることができるからです。実際、このテストを何度か繰り返すだけでも、脳のパフォーマンスを上げることができます。
ワーキングメモリを鍛えるには、脳に適度なストレスをかけるのが効果的。日常生活や普段の仕事において、頭の使い方をちょっと変えるだけで、脳機能を高められるのです。以下、具体的な方法を紹介しましょう。
1つ目は、三つ程度のマルチタスクをこなすことです。たとえば、上司から頼まれた仕事をやりつつ、顧客からの電話に対応し、部下や後輩の様子にも気を配ってみる。ただし、タスクが5つ以上に増えると、情報を処理できずにストレスの原因になるので注意が必要です。
2つ目は、タスクに取り組む際、「より速く」「より丁寧に」「より良いものを」意識すること。いつもと同じタスクをくり返す場合にも、「次はどんな工夫をしようか」とゲーム感覚で取り組んでみる。それだけで、脳のトレーニングになります。
さらに、デスクの配置や備品の位置など、職場の環境を変えることでも、脳に刺激を与えることができます。
認知機能は歳を重ねるにつれ低下すると述べましたが、逆に、伸びる機能もあります。それが、「結晶性知能」です。
認知機能には、「流動性知能」と「結晶性知能」の2つがあります。「流動性知能」は、短期的な記憶力、新しいルールの理解力、空間認知力、発想力など、新しいことに対処する力で、前述のワーキングメモリもこれに当たります。
一方、「結晶性知能」は経験に基づく知恵や知識や経験のことで、これは経験を重ねることで伸びていきます。
IQテストは経験とは無関係な「流動性知能」を測るものとして開発されてきましたが、「流動性知能」にも「結晶性知能」が混入しており分離できないというのが今の考え方です。
その結果、本来、流動性知能に含まれる「集中力」は43歳でピークが訪れ、「感情認知能力」は48歳、「理解力」は50歳前後、「語彙力」に至っては67歳がピークになっています。
40代以降で衰えやすいワーキングメモリの力をしっかり鍛え、40代以降に高まるこうした能力をうまく利用していけば、脳のパフォーマンスはむしろ伸びていきます。
そもそも、40代以降の主な仕事は交渉や部下育成などであり、必要となるのは感情認知能力や理解力といった結晶性知能を多く含むものです。つまり、流動性知能の衰えを過剰に恐れる必要はないともいえるのです。とはいえ、いくつになっても新しいことを覚えたり、豊かな発想力を持てるに越したことはありません。
『THE21』2018年2月号より
取材構成 前田はるみ
更新:11月22日 00:05