2017年10月09日 公開
2022年11月10日 更新
「モチベーション」という言葉は、今では一般的な言葉になっているが、浸透したのはここ20年ほどのことではないだろうか。「働く人のモチベーションは時代の変化とともに変わっている」と話すのは、モチベーションを切り口としたコンサルティングサービスを提供し続けてきたリンクアンドモチベーション創業者の小笹芳央氏。日本でいち早く「モチベーション」に注目した小笹氏に、今考えるべきモチベーションの高め方についてうかがった。《取材・構成=前田はるみ、写真撮影=長谷川博一》
日本でいち早く「モチベーション」に注目し、モチベーションを切り口としたコンサルティングサービスを提供し続けてきたリンクアンドモチベーション代表取締役会長の小笹芳央氏。同社を設立した二〇〇〇年と比較すると、「今はモチベーションのあり方が加速度的に多様化しており、モチベーション管理がますます難しくなっている」と指摘する。
「働く人のモチベーションの変遷を見てみると、かつて高度成長期のいわゆる『闘うサラリーマン』は、家族を養うため、物質的な豊かさを得るために働いていました。出世して、いい給料をもらうことがモチベーションの源泉だったわけです。
ところが、1990年前後あたり、経済が成熟期を迎えた頃に入社した人たちを見ると、必ずしも出世や給料のためだけではなく、自分らしくありたい、誰かの役に立ちたい、誰かに認められたいなど、モチベーションが多様化してくるのを感じました。この先、企業ではモチベーションの世代間ギャップが顕在化し、モチベーション管理が課題になるに違いない。そのように予測して、モチベーションにフォーカスしたこの会社を立ち上げました。
それから17年経った今は、一人ひとりの事情に応じた働きやすさを実現しようとする『働き方改革』の動きも加わり、モチベーションの多様化がますます加速しています」
モチベーションが多様化すると、昔のように待遇や給与での動機づけだけで組織の士気を高めることは難しくなってくる。多様な「個」に応じたモチベーション管理が必要だ。ここに、今の時代ならではの難しさがあると小笹氏は言う。
「今の若い人たちは、皆で飲みに行っても、『とりあえずビール』ということがなく、『私はハイボール』『私はレモンサワー』などと自由に注文するように思います。おそらくこれまでの生活のなかで、集団の型にはめられたり、圧力を受けて理不尽な思いをしたような経験がかつてよりも少ないのでしょう。その意味では、『個』として大切に育てられてきたと言えます。逆に言えば、『個』を守ろうとする防御心も強い。若い人の中には、『個』を尊重したマネジメントをされないと、自己否定されたように感じ、心が折れてしまう人も少なくありません。
今の時代のモチベーション管理において必要なのは、『個』の特性を把握しておくことです。どのような環境で育ち、なぜこの会社に入ったのか、何が喜怒哀楽のポイントなのか。
たとえば、リーダーシップを発揮したいタイプなら、なるべく口を出さずに仕事を任せるようにしたり、チームでやる仕事をやらせてみる。あるいは人の役に立ちたいと思っているタイプなら、直接顧客の声を聞くことができるような仕事を任せてみる。このように一人ひとり異なるモチベーションのあり方を理解し、マネジメントしていくことが大切なのです」
組織においては、個人のモチベーションを高めるだけでなく、それらを束ね、共通の目標達成に導いていかなければならない。
「皆が同じ方向を向いていた時代は、個人の出世欲や金銭欲を満たすことで、組織全体のモチベーションも高めることができました。ところが今は、多様化した個々のモチベーションに応じたマネジメントを行ないながら、組織全体のベクトルも合わせていかなければなりません。これが、昨今のモチベーション管理のもう一つの難しさです」
更新:11月25日 00:05