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葛西紀明・負けず嫌いの「レジェンド」のやる気UP術

2017年11月08日 公開
2017年11月14日 更新

葛西紀明(スキージャンプ選手)

 

「理不尽」に耐えればチャンスは必ず訪れる

しかし、スキージャンプという競技は、天候や風向きなど、努力ではどうにもならない部分が結果に影響する競技でもある。努力しても結果が出ないときは、どう気持ちを切り替えているのだろうか。

「たしかに、理不尽だなと思うことはしょっちゅうです。実際に、風のせいで何度も泣かされました。『なんで、前の選手まではいい風だったのに、自分のときは変わるんだ』と。でも、そのたびに、『いつかいいときが来る』『きっと、オリンピックの時に来るぞ』と自分に言い聞かせてきました。そうすると本当に、大舞台で自分のときに急に風向きが良くなったり、『我慢して良かった』と思う瞬間がやって来るのです。
ソチでメダルを取るまで、22年もかかりましたが、チャンスを信じる気持ちを失わなかったからこそモチベーションを維持できたのだと思います」

 

仔細に「書く」ことで目標が明確になる

巡ってくるチャンスを信じ、モチベーションを高める――そのために葛西選手がしている習慣がある。それは、「手帳に目標を事細かに書く」ことだ。

「私が所属する土屋ホームの経営方針発表会が11月にあるのですが、そのときに手帳が支給されるんです。それに毎年、目標を書き込んでいます。
大事なのは、できるだけリアルに書くことです。たとえば、『この大会で何位に入る。すると、これだけの賞金が手に入るので、そのお金で新しいテレビを買う』といったことまで書き込んでいます。実際に先日、賞金でテレビを買いましたよ。
書くことによって目標は『計画』に変わり、モチベーションがアップします。すると、ちゃんと思い描いたように叶っていく傾向があるのです。
ソチオリンピックでメダルを取ったときがまさにそうでした。事前に、『2本目を飛んだあと、ブレーキングトラックで1位の結果を見て、号泣する』というところまで手帳に書き込んでいたのです。実際にあの舞台でそれが現実になりました。ただ、わずかなポイント差で2位になってしまったので、そこだけが書いたとおりにならず、悔しいのですが……。
ただ、書いたからといって簡単に実現できることではないとわかっているので、もちろんそれに向けて努力はします。でもそれと同時に、チャンスをつかむ、良い流れに乗るということが大事だと今は思っています」

いよいよ今冬に迫る平昌オリンピックに向け、今もストイックに努力を続けている葛西選手だが、ここぞというときにモチベーションを上げるためには、「休み方」も大事だという。

「ジャンプは一瞬で終わる競技だけど、飛び終わったあとには肉体的にも精神的にもすごく疲れるんです。もし一日中ジャンプのことばかり考えていたら、身体より先に頭が疲れてしまって、やりたいこともできなくなってしまいます。
ですから、競技が終わったらできるだけジャンプのことを考えないようにしています。時間があるときは温泉やショッピングに行ったり、おいしいものを食べたり、リラックスして過ごします。そうすればトレーニング中にもやる気を維持できるし、試合のときには集中できます。努力を続けることは大事ですが、その一方で頭と心をリフレッシュさせることも必要。そのほうが、モチベーションが続くと思います」

 

《『THE21』2017年10月号より》

著者紹介

葛西紀明(かさい・のりあき)

スキージャンプ選手/〔株〕土屋ホーム スキー部 選手兼監督

1972年、北海道下川町生まれ。92年のアルベールビルオリンピックに19歳で初出場して以来、リレハンメル、長野、ソルトレイクシティ、トリノ、バンクーバー、ソチと史上最多計7回の冬季オリンピックを始め、数多くの国際大会に出場。ソチオリンピックでは個人ラージヒル銀、団体銅の2つのメダルを獲得。40歳を超えてなお第一線で活躍し、「レジェンド(生ける伝説)」と国内外から尊敬を集める。「ワールドカップ最年長優勝」「冬季五輪7大会連続最多出場」「冬季五輪スキージャンプ最年長メダリスト」「ワールドカップ最多出場」「ノルディックスキー世界選手権最多出場」の5つのギネス世界記録ホルダー。

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