2017年06月15日 公開
2023年04月06日 更新
日々多くの人が経験しているであろう、小さな「うっかりミス」。しかしそれらは思わぬトラブルや大幅な遅延、ときには人の命に関わるような結果をもたらすこともある。そのリスクを未然に防ぐ方法とは? 失敗からミスを防ぐ方法を探る「失敗学」の権威である飯野謙次氏に、「ミスをしない仕組み」の極意をうかがった。
人が起こすミスは、「4つの種類」に分けることができます。
1つ目は「学習不足」。知識と技量が及ばず犯すミスです。2つ目は「伝達不足」。必要な情報を知らされずに起きる、いわゆるホウレンソウの不備です。3つ目は「計画不足」。業務を抱え過ぎて締め切りに間に合わなかった、などが典型例です。
そしてもっとも単純かつ厄介なのが、4つ目の「注意不足」。忘れ物や紛失物、チェック漏れなどのいわゆる「うっかりミス」の類です。
人はこの手のミスを犯したとき、しばしば「次から注意します」と言います。しかしこれでは何の解決にもなりません。なぜなら、そもそも人間の注意力には限界があるからです。必要なのは、注意力が低下してもミスが起こらない「仕組み」を作ることなのです。
たとえば「忘れ物」を防ぐなら、まずは持ちもの自体を減らすことが必要。品数が少ないほど管理が簡単で、注意力も行き届くからです。「ないと絶対に困るもの」だけに絞り込んで持ち歩くのがコツです。
それでも忘れてしまう場合は、「持っていかざるを得ない」状況を作ること。たとえば私は、その日絶対に忘れてはならないものを「靴の上」に置く、ときには「靴の中」に入れておくようにしています。
うっかり忘れるものと言えば、「用事」も油断なりません。
ここではITツールが強い味方になります。タスクが発生したらすぐ「自分にメールをする」のがお勧めの方法。遂行するまで未読にしておけば目につきますから、忘れようがありません。
「機械に覚えておいてもらう」方法は他にもあります。私たちのオフィスでは共有のカレンダーをメールと連動させ、30分前など、イベントごとに好きなタイミングでリマインドメールが届くツールを使っています。「グーグルカレンダー」などにも似た機能があるので、スケジュール管理に悩む方々はぜひ試していただきたいところです。
他によく見られるうっかりシーンと言えば、「チェック漏れ」、つまり見落としです。米国で働いた経験から、日本人は英語圏に比べ、ミスの起こりやすいチェックリストを作る傾向があるように感じます。
たとえば機械の設定に関しては、「水温を適正にする」などの抽象的表現がしばしば見られます。同じ内容を、米国なら「水温を60度以上・80度以下に設定」と、具体的な数字で表わします。項目をできるだけ細分化することも忘れがちなポイント。ここでは「1作業1チェック」を徹底するべきです。
「ダブルチェック」の際も一工夫を。複数の人間が同じ方法でチェックしても、同じ箇所を見落とす可能性大。見る人ごとにやり方を変えてこそ、2人で確認する意味があるのです。
これらの仕組みは多くの場合、チームで共有することになります。ですから自作のチェックリストやマニュアルはぜひ他のメンバーに見てもらって確認を取りましょう。過去のミスを記録し、定期的に話し合って分析し、リストのブラッシュアップを図るのも良い方法です。
なお、中間管理職の方は仕組みを整えたうえで、各メンバーの技量や力量をきちんと把握しておくことが重要です。緻密なタスク管理体制を敷いたつもりでも、一緒に仕事をする人の力量を見誤れば、そのぶん他の誰かが無理をすることになり、注意力が低下してミスを引き起こすからです。また、人間は「気持ちの波」によってスピードとクオリティにブレが出るものです。期限や精度には、常に少し「ゆとり」を持たせることも忘れないようにしましょう。
人間が見落としやすいポイントは似通っているので、1 人が見落とした箇所を2 人目も……といったことが起こりがち。そこで有効なのが「逆さ読み」という手法だ。2 人目はリストを上下逆にして確認すれば読みにくくなって丁寧に読み直さざるを得ないので、漏れを防ぐことができる。チェックリストの確認以外に、検算もAさんが表の上段から順に足したら、Bさんは下段から足す、といった方法が望ましい。また、エクセルへのデータ入力では、まずはAさんがデータを読み上げBさんが入力し、今度はBさんが自分で打ちこんだものを読み上げて、Aさんが元のデータと照らし合わせるといいだろう。
取材構成 林加愛
『THE21』2017年6月号より
更新:11月26日 00:05