2017年05月30日 公開
2023年01月25日 更新
前回は、エアビーアンドビーの「社内風土づくりに徹底的にこだわる」独特の戦略について紹介してきた。そして、そのムーブメントは社内だけでなく、社外そして地域をも変えつつある。
一昔前には、設立からわずか9年目の会社が世界191カ国で事業を運営し、19カ所にオフィスを持つというのは考え難いことだった。エアビーアンドビーは、ひとつの会社としての統一(グローバル)と、地域性の尊重(ローカル)という二つの側面に注意を払いつつ、企業文化を継続的に強化していくことを目的に様々な工夫をしている。
なかでも最も大がかりなものが、世界各地から社員がサンフランシスコの本社に集結して開催される「ワン・エアビーアンドビー」だ。ただの「社員カンファレンス」と呼ぶにはもったいないほど演出豊かでハートのこもった3日間のイベントだ。2017年の1月には世界中から約3,000人が集まり、経営陣による指針発表や、社員同士がチームを組んで課題に取り組むワークショップ、本社社員が「ホスト」になり、他地域から訪問している社員を「ゲスト」として招いて行なわれるディナーパーティなど、盛りだくさんのプログラムを通して、エアビーアンドビーの企業文化とコア・バリューを体感し、「Airfam(エアビーアンドビー・ファミリー)」としての結束を高める機会としている。
ざっと書き連ねただけでも、大きなことから小さなことまで、また、組織的に管理されていることから社員個々人が率先して行なうことまで、常時、ありとあらゆる「企業文化育成の取り組み」が同時進行しているのがエアビーアンドビーの特徴だ。その根底にあるのは、創業者が「デイ・ワン」から「企業文化/コア・バリューを経営戦略の中核」と捉えて、意識的かつ地道な努力を自ら払ってきた事実に他ならない。
「やらされ感」が漂うことの多い企業文化の取り組みだが、エアビーアンドビーを訪問して、本社の空間全体にみなぎる明るくポジティブなエネルギーに、社員から会社というコミュニティへの本物の愛情と使命への情熱をひしひしと感じた。
何をもってして「居場所」「居心地の良さ」と定義するか、それは人によって異なる。そこがエアビーアンドビーのようなP2Pサービスの醍醐味だと、田邉さんは語る。
マスを対象とすると、人それぞれのテイストが異なる中で、その中間値を取って、ある意味「妥協」しながらマス受けするサービスを提供しなくてはならない。しかし、エアビーアンドビーのようなP2Pサービスでは、ホストが自分の「想い」をひたすら発信し、世界中で50人でもその「想い」が伝わる人を見つけられれば、そこにビジネスが成立する。
ゲストの視点で言えば、見知らぬ土地に行っても、以前に行ったことのある土地に行っても、「ホスト」という「人」を通して全く異なる体験、全く異なる発見ができる。「人」を通して、「旅」が変わる。ここでも、キーワードは「人」だ。
だからエアビーアンドビーでは、「人」の集合体である「コミュニティ」を大切にする。エアビーアンドビーの社員とホスト、そしてホスト同士が対等に触れ合い、情報交換することで、「居場所をつくる」という使命を遂行している。
どのように「居場所をつくる」のか、それを各地域に委ねているのもエアビーアンドビーの大きな特徴のひとつである。
エアビーアンドビーでは、「民泊」を地域活性化のキーワードにする独自の取り組みが進んでいる。たとえば2017年1月には奈良県吉野郡吉野町とのコラボレーションで、コミュニティハウス「吉野杉の家」をオープンした。
私も日本に出張した際に立ち寄らせてもらったが、吉野川の川辺に、吉野杉を使って建てられたこぢんまりとした二階建ての家屋だ。一階はリビング兼コミュニティ・スペース、二階がロフト形式のベッドルームになっている。地域に密着した、なんともいえない居心地の良さが漂う。高齢化や過疎化が進む吉野で、地元の伝統を活かし、吉野町に住み、働く人たちによって運営されている、まさしく「コミュニティによる、コミュニティのための」施設だ。エアビーアンドビーを通して得られる収益のほぼ全額が、地域活性化の活動や文化遺産を守るための資金として寄付される仕組みになっているという。
コミュニティハウス「吉野杉の家」(写真提供 Airbnb)
更新:11月22日 00:05