2017年05月02日 公開
2023年04月06日 更新
商品を実際に使ってみせながら、スラスラと口上を並べる実演販売士。百貨店などの店頭で、またテレビの通販番組でも見たことがあるだろう。この業界でトップクラスの実績を誇り、テレビショッピングで1日に1億8,000万円の売上げを記録したこともあるカリスマ実演販売士・レジェンド松下氏に、人の心を動かす話し方の秘訣を聞いた。《取材・構成=塚田有香、写真撮影=長谷川博一》
ホームセンターや百貨店の店頭に立ち、実際に商品を使ってみせながら、その魅力をわかりやすいトークで買い物客に伝える実演販売士。この業界きっての実力者で、1台10万円の高級電子レンジを1日で150台以上販売したほどの実績を誇るのがレジェンド松下氏だ。
たまたま通りかかった人の足を止め、商品に興味を持たせて、最終的に購入してもらうという高いハードルを越えるために、プロの実演販売士はどんな話し方を実践しているのか。
「実演販売士はその場で話すことを決めるわけではなく、必ず事前に台本を作ります。お客様の心を動かすには、皆さんが納得できるだけのしっかりしたストーリーが必要だからです。
私が台本を作る時は、『序・破・急(じょはきゅう)』の構成でストーリーを組み立てます。もともとは雅楽や能楽で使われてきた三段構成で、これを意識すると話にリズムが生まれ、聞く人の気持ちを動かしたり、巻き込みやすくなります」
『序』は話の導入であり、実演販売士にとっては、客と信頼関係を築くための重要な段階だ。
「たいていのお客様は実演販売士を見かけると、こちらを警戒して離れた場所で足を止めます。ここでいきなり『この商品、いいですよ!』などと言ったら、即座に逃げられるのがオチです。
そこで『序』では、相手との物理的な距離と心理的な距離の両方を縮めるために、まずはお客様と課題を共有します。
たとえば、私が長年販売している業務用のピーラーは、『野菜の皮をむくだけでなく、キャベツの千切りも簡単にできる!』という点が、最もキャッチーで見る人にインパクトを与えるアピールポイントです。でも私は最初からこの特長を説明せず、まずは従来のピーラーについて、お客様が普段感じているはずの不満や悩みを投げかけます。
『従来の皮むき器は、野菜の表面をザクザク引っ掻いているだけなので、野菜の繊維を傷めちゃうんですよね』
ここでお客様が『うんうん』とうなずきたくなるシチュエーションをたくさん提示できれば、私との間に共感が生まれ、信頼関係につながります。
ポイントは、丁寧にゆっくりと話すこと。私の場合、『序』だけで十五分ほどかけます」
この前置きを経て、ようやく商品説明に移る。
「『このピーラーは今までにない硬い刃を使っているので切れ味抜群。見てください、切り口がピカッと光るほど滑らかでしょ?』と話せば、お客様は『この人の話は役立つかも』と思い始めます。ここまでが『序』。
ここで共有した課題を解決するのが次の『破』の段階。信頼関係の下地ができたので、ここでようやくキャッチーな売り文句の出番です。『しかも! キャベツの平らな面に刃を置いてスッスッと動かすだけで、極薄の千切りができるんです!』と、ここで初めて伝えるのです。お客様に『すごい!』という驚きを与えることができたら、距離を詰めるチャンス。『前へ来ていただくと見やすいですよ』と声をかけると、全員が寄ってきてくれます」
この『破』からは話のテンポをどんどん上げ、最後の『急』で一気に畳み掛ける。
「『急』は、お客様に夢を見せる段階。『これを買えば、こんなこともあんなこともできる』と、いくつもメリットを伝えます。
『キャベツだけじゃない、ピーマンも玉ねぎもゴボウも何でも来い。薄切りもできるし、涙も出ないし、硬いものを切っても刃が傷まない!』とアップテンポで並べ立てると、お客様の『欲しい!』という気持ちは最高潮に盛り上がり、次々と商品を手に取ってくださいます」
更新:12月10日 00:05