2017年03月10日 公開
2023年02月01日 更新
外資系企業の日本法人のトップから2009年にカルビーのCEOに就任した松本晃氏は、さまざまな社内改革を行なってきた。トップが意識して改革を行なうとき、その意図を社内外に正しく伝える必要があるが、松本氏のメッセージはとにかくシンプルで鮮烈、印象に残る。その伝え方の極意についてうかがった。《取材・構成=杉山直隆、写真撮影=まるやゆういち》
ジョンソン・エンド・ジョンソンの経営トップを15年務めたのち、2009年にまったくの異業種だったカルビーの代表取締役会長・CEOに転身した松本晃氏。就任後は、新たな商品戦略を打ち出したり、女性登用や在宅勤務を推進したり、とさまざまな改革を進める一方、『フルグラ』を始めとした数々のヒットを飛ばし、七期連続増収増益を達成している。
そんな松本氏は、多くの社員を動かすために、どんな話し方を心がけているのだろうか。すると、次のような答えが返って来た。
「相手に合わせて話すこと。それに尽きますね」
社員だけでなく、さまざまな経営者や有識者と話す機会の多い松本氏だが、「しゃべり方は上手だけど、話の内容が残らない。そんな人が多い」と指摘する。
「なぜ心に残らないのか。話の中身がないということもありますが、一番の理由は、相手に合わせた話し方をしていないからです。相手がどんな人かを考えないで、難しい言葉や聞きなれない言葉を使って、自分の言いたいことを一方的に話してしまう。大学教授など知的な人に多いタイプですが、ビジネスマンにも少なくありません。難しく話さないと、格好がつかないとでも思っているのでしょうか。でもそれでは、相手に理解してもらえませんから、何の意味もない。ただの漫談になってしまいますよ」
自分の話を相手の記憶に焼き付け、行動の改善につなげてもらうためには、相手の理解度に合わせた話し方をすることが大切だと、松本氏は言う。
「マンツーマンで話すときには、相手が理解しているかどうか、確認しながら話す。大勢に向かって話すときも、相手に合わせます。たとえば、話を聞く相手が100人いるとしたら、各自の理解力は皆違いますから、その中でも上から75番目くらいの人を意識して話します。最も理解力が低い人に合わせて話し、全員に理解してもらうのを目指すのが理想ではありますが、それはなかなか難しい。75番目くらいの人に合わせようと思うと、ちょうどいい話ができると思っています」
具体的には、平易な言葉を使い、ボキャブラリーも減らすこと。たしかに、このインタビュー中も、カタカナ言葉や小難しい言い回しは、まったく出てこなかった。
「松下幸之助さんが、まさにこの話し方の典型ではないでしょうか。生前の発言を記録した書籍を読んでも、難しい言葉はまったく出てきません。仕事に関わる人たちやお客様にはさまざまな人がいる。その誰もがわかるように、と相手のことを考えて話していたのでしょう。また、アメリカのトランプ大統領はボキャブラリーが250くらいしかないなどと揶揄されていますが、政策や発言の是非はともかく、ボキャブラリーについては、誰にでも伝わるようにわざと減らしているのだと思います」
更新:11月25日 00:05